インタビュー(柴柳 敏哉教授)

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ーー研究内容について教えてください。

 

柴柳氏:溶接・接合です。主としてアルミニウム合金が研究対象で、界面科学の立場だけではなく産業実装も視野に入れています。

 

研究の一例として、富山大学オリジナルの「円盤摩擦接合法」を開発して特許を取りました。今はそれを種々の材料の接合に適用する研究を展開しています。

 

溶接は2つの材料を一つにする操作のことを言いますが、必ずそこには界面、つまり2つの材料が接触する部分があります。

 

その界面が正常な機能を発揮したら、その接合体は強くなります。しかし、多くの場合は界面に不都合がたくさんあります。その不都合な部分を一つずつ丁寧に解決して、信頼できる界面制御法を世の中に提供するのが溶接屋としての主なミッションです。

 

例えば、土木建築、造船、自動車、電子産業などにおける溶接・接合において、「絶対大丈夫です」と品質を担保するのが溶接工学です。それが我々溶接研究者の仕事です。

 

ーー研究の特徴について教えてください。

 

柴柳氏:「日本発の接合技術を開拓する」というのが特徴です。

そのベースになるのが、結晶界面の物理と化学で、これを基本原理にして、素材ごとの最適化を図るための工学的手法を取り入れて技術開発へと展開しています。

 

ーー物理と化学を基本にしてというのは、どういうことですか?

 

柴柳氏:「溶接」は、単に溶かして接合するということではないのです。どんな界面ができるのかということを原子レベルで、きちんと把握し、その界面設計指針に間違いがないことを証明することが、私たちの仕事になります。そこには物理も化学も使います。

 

金属材料の多くは様々な元素からなる合金として使用されます。これを理解するには、元素間の相互作用を議論する「熱力学」を必要とします。これを理解して、界面の化学的状態の評価と安定状態の設計をします。次に、物理が追いかけてきます。材料物理の原理原則を用いて金属の変形理論に立脚した強くて信頼性のある界面設計をします。

 

すなわち、化学と物理学の両方を使って界面で何が起こるのかということを科学的に解明して、それを最適化するプロセスを設計する。これが、溶接の研究者がしている仕事です。

 

ーーいつごろから研究をスタートさせましたか?

 

柴柳氏:14年前です。円盤摩擦接合は阪大にいるときに初号機に着手し、富山にて2号機を作り、接合できることを確認して、現在の3号機につながります。この一連の研究の中で特許を取るためのデータを出しました。

 

ちなみに、自分の母校の自慢になってしまいますが、日本全国で溶接を教えている学科を持っているのは、阪大だけです。

 

総合的にカリキュラムとして学べる/教えられる学校で、卒業すると、国際ライセンスを取るための基礎ポイントが付与されます。数百ポイントを持っていないとInternational Welding Engineer (IWE)のライセンスを受審できません。IWEのライセンスを持っていないと外国で溶接できないです。そのため、国際的にプラントを輸出したり、海外でモノを作ったりする会社にとっては、IWEの資格を持っていない社員を派遣したところで、溶接の施工管理が出来ないんです。よって、国際ライセンスを持っている社員を派遣することは必須なんです。

 

ーー阪大を出ると、免許がとれるんですか?

 

柴柳氏:厳密にいうと、阪大を出ると仮免の状態になります。実社会でどれだけの技術を身に付けるかが重要です。

 

ーー造船などでは、溶接をよくやっていますよね。造船で溶接をやられているエンジニアの方は、みなさん資格を持っているということですかね。

 

柴柳氏:そうです。日本国内では溶接技能者評価試験があります。3年に1回免許の更新があります。また、1つの工法につき、1個のライセンスが存在します。そのため、たくさん持っている人は色々できます。最上位の資格を持っていないと許されない施工現場もあるんですよ。

 

ーー自動で溶接ロボットもありますよね。

 

柴柳氏:あります。ロボットに出来る限界がありますが、自動車組み立て工場で見られる抵抗スポット溶接やレーザー溶接はロボットがやります。ロボットの機能は日々進化しています。船や橋の溶接は、サブマージ溶接という自動溶接を行いますが、傍で施工管理者は見ていますよ。

 

ーーでは、そういう資格を持っている人が見ている上で、ロボットは作業ができるということですね。

 

柴柳氏:そういうことです。溶接は規格の世界です。世界中で同じような規格を持っています。

 

ーー各国で、規格があるんですね。

 

柴柳氏:その通りです。統一規格のようなものがあって、その基準に達している人材を養成しなさいとか、自分の国の規格に合ったロボットを用意しないと私の国では、使わせません、という風になっています。

 

ーー業界特有なものがあるんですね。

 

柴柳氏:ものづくりに軸足が置かれていますので、産業実装を睨んだ学術研究が評価される世界ですね。ここでは産学連携の緊密度が大事になります。

 

ーー企業はどのようなところで利用していましたか?

 

柴柳氏:共同研究があります。それから、教育でいうと博士号を取りたいということで来ていました。大阪大学接合科学研究所では、最新の溶接技術開拓に従事する者としては、60人ほどの研究者がいました。加えて、大学院生が数十人という単位でいます。それくらいのボリュームのあるところで、勉強できるということは、企業側にとっては一つのメリットといえます。

 

研究室では、ほとんどの溶接法を誰かがやっています。足りないのは接着だけでした。あとは全員揃っていました。

 

研究室のメンバーになると、同じ建物の中にあらゆる溶接の先生がいるので、日常的に話が出来ます。そこでビジネスチャンスも生まれますし、教えてもらえるし、結構おいしいです。

 

教育的には、国際的な基準を満たしているような教育を受けることが出来ます。また、共同研究としてみたら、新しい技術開発を、まだ学会発表をしていないようなことが出来る瞬間に立ち会えるということです。

 

ーー企業が大学に関わっている例などはありますか?

 

柴柳氏:某大手造船会社は、数千万円の出資をして、共同研究講座を10年以上置いています。4部屋くらいありました。情報セキュリティがしっかりした部屋を大学が用意しました。

 

ーーそんな場所があるんですね。

 

柴柳氏:関係者しか入室できませんでしたよ。

 

ーーその会社の別室みたいなところですね。

 

柴柳氏:その会社の部長が客員教授として来られたこともありました。造船では、溶接はどうしても必要ですから、企業側がよほどメリットを感じたのでしょう。

 

当時のレーザー溶接技術は、進化が早く産学連携の必要性が高かったです。それでレーザーの研究者に魅力を感じてくれて共同研究講座ができ、大学院生が配属されました。院生にとっては、その会社のラボに入れるということは、就職が約束されていますし、企業側も彼をリクルートしやすくなります。

 

新しい技術を一番先に手に入れることができ、将来雇いたいという学生を探すことができますから、大学に出入りできるということは、企業にとってはかなりメリットがあると思います。また、年に1回、学生だけが研究発表するのを先生が見るという機会もありました。

 

卒論とは違い、進捗状況発表会みたいなものです。その場に企業も来ることができましたから、リクルートできる学生をいち早く見つけることもできました。

 

ーーお話をお伺いしていると、阪大接合研にいらした時の環境が、先生の研究のバックグランドとして、大きな影響を及ぼしたと感じますが、阪大の研究所のカルチャーとは、どのようなものだったのでしょうか?

 

柴柳氏:新しいものを作らないといけない風潮がとても強いところでした。そういうカルチャーの中にいましたから、ビジネス的に言いますと、「世の中にない」ことを誰よりも先に実現し、世界初の装置を導入し、それらをもって外部資金や優秀な研究者を集めて世界一になろうと皆が切磋琢磨していました。

 

ーー「どこにもないもの」を持つことで、優位になるわけですね。

 

柴柳氏:カタログに載っている実験装置に一生懸命お金を掛けても、財力のあるところは持っているので、何の優位性もないです。

 

「何それ!見たこともないよね」というものを持っているというのが強みになりました。研究所では、そういうことを若い頃から教え込まれてきました。

 

そのため、人が持っていないものを作りました。例えば、計算機プログラムなどは最たる物で、そこにしかないプログラム、アルゴリズムをみんな持っています。

 

それを使いたければ、当然料金がかかります。そして、ハードウェアが得意な人もいれば、数値計算が得意な人もいます。色々な人材がいます。

 

そのような経験があったから、富山大学に来てからは「見えないものを見えるようにする」可視化研究はとても自然な流れだったんです。

 

ーーそれはどのようなことですか?

 

柴柳氏:溶接は金属を溶かす場合とそうでない場合があるのですが、いずれにしても、可視光に対して金属は不透明なので、中で何が起きているのかが分かりません。

 

そこで、物理的な性質がよく似ている、すなわち相似則が成立する透明な流体を開発して、その透明流体で生じている現象は、金属の中でも起きていると考えても間違いではないデータを出すための、可視化実験装置を作りました。

研究対象としたのは、摩擦撹拌接合(FSW)という技術で、例えば新幹線の床板の接合に使われています。

 

接合中に被接合材が攪拌されるのですが、それがどういう風になっているのかが、直接観察することが極めて難しいんです。それをきちんと見ましょうということをやってきました。

 

この技術開発は、流体を専門とする先生と一緒にやってきました。流体というとコップの中の水みたいなものを思い浮かべるでしょう。私たちは逆さまにしても落ちてこない、だけど、かき混ぜると回るし、色は透明という物質を開発しました。

 

これを用いて、FSWの模擬実験を行い、一番良いプロセスを見つけつつ、新しいタイプのベストな接合工具の形状を見つけ出しました。

 

ーー可視化実験装置は、どのような場所で使われていますか?

 

柴柳氏: FSWは自動車や例えば橋などのインフラ構造物の部品を作る時に適用されます。自動車では、スポット溶接の代わりにスポットFSWを用いることが挙げられます。

 

ーー産業実装についてお聞かせください

 

柴柳氏:円盤摩擦接合法は学術指導を行いました。ちなみに円盤装置は世界に1台しかない開発段階のもので、産業実装するには多くの改良・改造が必要ですが、近い将来には商用機を目指したいです。

 

ーーそういうことなんですね。オンリーワンなのですね。

 

柴柳氏:その通りです。「誰も持ってないもの」を作っていますから。

 

ーー誰も持っていないものを作ろうと思われたきっかけというか、市場のニーズであったり、トレンドというものがあったのですか?

 

柴柳氏:若手だった頃、「人と同じ事をしても仕方ない」とみんな言っていました。私自身、誰かがやっていることには、全く興味がありませんでした。研究所には、「自分だったらこうする」というような事が転がっていましたので、新しいものを作ることを常に考えていました。

 

ーーそのようにして、新しく作られたものに対して、企業が見つけてきたわけですね。

 

柴柳氏:企業からアプローチがあり、例えば、うちでやるのでしたら、こういう機能を付けた方がよいというようなことを言われます。その部分を改造しましょうか、ということになれば、それが共同研究になります。

 

ーー先生の研究のテーマの方向と企業側の商品化までに繋がる興味は、ずれることがありますか?

 

柴柳氏:ずれますね。

 

ーーそこをうまく合わせていくのは、どうやっていますか?

 

柴柳氏:それが、まさしくコーディネーターの仕事です。

 

ーー確かに、そうですね。

 

柴柳氏:実際は、合わせるというか、契約マターとして捉えています。私が本当にやりたいことはサイエンスの部分になりますが、そこは企業側の立場からすると興味がないと思います。

 

契約の範囲内ですとXX回の実験をすればご希望のデータが出ます、というのをこちらが提示します。1回実験するのにいくら必要だから、XX回まで足していくと例えば300万かかりますということを提示します。そこで合意ができたら契約成立となりますね。

 

ーー研究を進める中で、研究者と企業の感覚のずれのようなことはありますか?

 

柴柳氏:研究データは複数の原因が潜んでいることが多く、他にも因子があるのに最適化しても、仕方ないと思うことはありました。他の部分に不具合が潜んでいるから、合金の種が変わったら適用できないこともあります。即効性を求められた場合は、その分余計に作業する人数が要ります。1ヶ月で短期決戦でやるのでしたら、増えた人数分の人件費が必要になります。その時は人件費を請求します。

 

人をこちらで揃える場合以外にも、企業が社員を送り込み、実験したこともありました。

 

ーー常にコストへの意識を持っていらっしゃいますね。

 

柴柳氏:研究にはお金が要ります。研究費は自分で稼ぐしかありません。

 

ーー実に興味深いですね。さて、次に今の研究開発において大変な部分について教えてください。

 

柴柳氏:今でも潤沢ではありませんが、最初の頃は、資金確保に困りました。試作機しかないような状況で共同研究してくれるわけでもないわけで、JSTの新技術説明会に出してもらったり、科研費を取ったりして食いつなぎました。お客さんを探すのは大変でしたね。

 

また、研究費の確保は大変でした。共同研究先は後からついてくるので、そこはあまり心配はしておりませんが、大学にあっては、研究開発費というのはありませんから、自分で科研費を取ってきなさいということになります。自らの力で共同研究費や受託研究費を確保してやりなさいということです。

 

若い頃は特に資金力がなく、ネームバリューもありませんから、先行投資できないか大学と交渉しました。そして、大学が毎年予算をつける代わりに、特許をとって、大きなお金がとれた時、間接経費で返すという形で、研究費を得ることができました。その後、共同研究費などの外部資金も順調に増えていきました。

 

ーー研究費の確保には、ご苦労があられたのですね。やはり、資金調達は大切ですね。

 

柴柳氏:そう思います。また、自分の持っているノウハウに対する適正な価値付けも大切だと思います。この研究を高値で買ってもらえると思うと、やっぱりモチベーションは変わりますよね。

 

ーー産学連携本部は、どんな存在ですか?

 

柴柳氏:コーディネーターであり、腕利きのエージェントです。野球でいう交渉人としての役割を担います。産学連携本部の人数がもっと増えた方が幅広くやれるかなと思います。

 

先生方の多くは、自分のノウハウ料が高い値段で買ってもらえることをご存じないと思います。昔は、企業と大学が研究をするというのは、まかり成らぬという風潮でした。あの時代を引きずっている先生の中には、「お金に無頓着」という方がおられます。

 

ノウハウ料は適正価格で取引されるべきものです。ですから、パテントをとり、それを武器に高く売りんでいくという、そういう戦術というものを産学連携本部と一緒になってやっていったらよいと思います。苦労したことを踏まえて、申し上げるとそういうことになります。

 

ーー産学連携本部にどのようなことを求めたいですか?

 

柴柳氏:サポーターとして企業を連れてきてくれるとか、交渉をしてくれるとか、あるいはアドバイザーとして「こういうデータを出してくれたら、もっと高く売れるけれど、先生そういうデータ出せる?」というように、メンターのようなことをやってくれれば、今後若い研究者たちが、私のような苦労をせずに済むかと思います。売り込みをサポートしてくれることは、すごく助かります。

 

ーー現在、企業とはどういう連携をされていますか?

 

柴柳氏:企業が抱えている問題に対して特殊技術を適正価格で、産業実装していくということをしています。企業が今解決したいと思っている接合技術について連携をしています。

 

例えば、ある製造機械メーカーでは軽量化が必要で、ボルト留めを減らしたいという課題がありました。ボルト留めがあると工数が増えますので、ボルトに取って代わる溶接を希望していました。

 

ーーボルトを減らしてスポット溶接で作るということですよね。

 

柴柳氏:そうですね。スポット溶接がやりにくい場所にも使いたいという要望があり、一緒に話をしています。軽量化を実現するためには、複合化といいまして、鉄だけでなく異種材料を何種類もつなぐ必要があります。

 

しかし、異種材料の溶融溶接は特に難しく、可能性があるのはレーザーか、摩擦撹拌のどちらかになります。他には、要求される強度と使用環境によっては接着法が選ばれることもあります。

 

命を預かるような重要な保安部品に対しては厳しい基準で溶接法を選択しますが、最近では、異種材料がどんどん使われ始めていますが、その溶接は結構難しく、学術の深化と技術開発が必要です。

 

ーーどういう企業や組織などとの連携を求めていますか?

 

柴柳氏:リサイクルに強い関心と意義を感じていらっしゃる企業と一緒に仕事をしたいと思っています。最近、ある企業から大事な部分は鉄で作っているものの、それ以外をリサイクルしたアルミで作りたいと相談されました。

 

最近、アルミの地金が高騰してきており、リサイクルアルミを活用するニーズが増えてきているからです。環境に優しいアルミ合金をできるだけ安く作るということになります。リサイクルアルミは不純物の制御がとても難しく、溶接に適しない問題が発生します。

 

リサイクルでは、使用済みアルミ部品・製品をスクラップにして、シュレッダーにかけ、ペレットにして再び熔解して、再生材として利用しますが、この時、色々余分なものが混ざってきます。不純物量が増えてしまうと、そのままでは使い物にならない。しかし、それを使えるようにするための技術開発が必要になります。

 

ーー今後、やりたいテーマなどについて教えてください。

 

柴柳氏:機械学習技術を取り入れた「スマート電子顕微鏡」の開発です。これを核にして、アルミリサイクル技術を高度化して、日本の資源循環技術を世界一に高めたいですね。

 

スマートリサイクルシステムに画像を見せたら「これは例のアルミ合金でしょ」と言わせるのが、最初のステップとなります。

 

どういう熱処理をしたらこの再生材は使い物になるかについて答えを出させる。そういうシステム開発を研究テーマにしたいなと思っています。

 

ーー機械学習的な事をやりたいというのは意外でした。

 

柴柳氏:実は溶接工学では、昔から研究されていたんですよ。ケンブリッジ大学で勉強してきて戻ってきた先生が既にやっていました。

 

ーーちなみに、今の研究は、阪大の時に思いついたとお話されていましたが、きっかけとなるエピソードがありましたらお聞かせください。

 

柴柳氏:割と忙しい研究所で、朝から晩まで研究しているんです。会社の研究員と一緒だと思ってください。

 

そんな時にお茶を飲んでぼーっといる時に、「もしかしたら、これって」というイメージが湧いてくるんです。そんな感じでした。

 

ーー根を詰めて考えている隙間に、アイディアが浮かんでくる感じですね。

 

柴柳氏:そうですね。研究者は皆さんそういう経験をしています。

 

ーーそして、たまに、リラックスした時に出て来るということですね。

 

柴柳氏:そんな感じですかね。それが脳のアイドリング状態なのかもしれません。少し肩の力が抜けた時に、「回転軸を垂直にしたら出来るよね」のような発想でした。

 

円盤摩擦接合法は、自動車のディスクブレーキに似ています。自動車は円盤のところを挟み込んで止まりますよね。凝着現象というのがありますが、それが技術的に問題になっていて、「なぜ焼き付くのだろう」ということを研究されている専門の先生が広島大学にいました。

 

その先生のことは以前から知っていまして、「なぜ焼きつくのか」ということが、ずっと私の頭にありました。

 

「焼き付き」というのは周知の現象ですが、これを上手に利用したら、「ひっつく」のではないか。つまり、「焼き付く」ということは、ひっついている=接合しているのではないか。そして、その円盤を外せば、「ひっつく」のではないか、そんな発想でしたね。色々な発想で、ストーリーを作りました。

 

ーー最後に、産学連携をしようとしている若い研究者へのアドバイスをお願いします。

 

柴柳氏:「やりたいこと、やりなはれ。」ということですね。つまり、上司の顔色をうかがうような研究をするな、ということです。私は結構楯突いてきましたから、失敗もするんですけど自立の糧になりました。精神論としては、そんな感じですかね。

 

また、「自分の能力を高く売りこんでいく」という努力をしてください。でも、一人ではできないものです。そこには限界があるので、産学連携本部の人たちに相談して助けてもらってください。

 

「それは特許になります!」と言ってくれる人が産学連携本部にはいます。特許化の機会を失うことがなくなりますよ。

 

これに関しては、私には苦い経験があります。レーザーパターニングという技術を開発して、服地模様のようにパターニングしてあげると木目みたいになって、方向性を持ったアルミ板を作りました。学会発表をしてしまった後で特許になりませんかといったら、全否定されてしまいました。もしあの時にパテントを先にとっていたらと、今でも悔やまれます。

 

そういう失敗をしたので、アイディアは、専門家に聞いてもらうというのが大事なことです。特許性がある場合は、特許を出願した方がいいです。その上で論文を書いて、学術成果と知的財産権の両方を手にすることは大切ですね。

 

ノウハウや解析する能力、データを読む能力など色々ありますが、あなたが身につけている問題解決能力に正しい価値(値段)をつけていただくパートナーをちゃんと横に置いてください。研究のアウトプットは第三者にみてもらって、パテントに出来るのだったら、パテントにしてもらえばいいし、それを産学連携の共同研究で、このままでは科研費の100万しかとれないが、産学連携本部を通じてスポンサーを探してもらったら、実は1,000万円になることがあります。

 

ーー本日はお忙しいところ、ありがとうございました。