インタビュー(森本准教授)

interview

今回は、工学系 工学科 電気電子工学コース 森本准教授へのインタビュー記事を掲載します。森本先生は有機材料の構造制御を専門としており、有機薄膜、構造制御、有機EL、etc にて実績があります。研究内容について教えていただきました。

--研究内容について教えてください。

森本勝大氏(以下、敬称略):有機ELデバイスの作製と性能評価になります。私自身の専門は有機デバイスの薄膜構造を制御する事になります。長い目で見た時の膜づくり、有機薄膜作製といったところが僕の専門になるかと思います。もともと私は化学が専門でしたが、最近はそちらの方がメインになってきています。

 

--研究の特徴、やりたいテーマなどについて教えてください。

森本:現状、やりたいこととしては有機ELになります。有機ELの薄膜というのは、アモルファスのことをいいますが、有機ELに構造制御性を入れるというところをライフワークにしたいと思っています。従来の有機ELデバイスは、多層積層構造になっていますが、すべてがアモルファスであり、ご存じのようにシリコンでも結晶シリコンが一番良いわけです。

アモルファスシリコンが最初に出てきて、そのあとに結晶質シリコンが出てきて使い物になっていくというパターンですが、有機ELもおそらく同じ道を辿っているのではないかと思います。

40年前は、皆さん結晶系の有機ELを研究していたのですが、全然ものにならなくて。アモルファスというブレークスルーに従って今の産業化が行われたわけなのですが、そろそろ構造制御された有機ELをやっていくべき時かなと思います。将来を信じて研究しています。

 

--いつごろから研究をスタートさせましたか?

森本:有機ELは、富山大学に来てから、中先生とやり始めてからになりますので、2018年からですね。僕の研究室というより有機ELの構造制御の研究そのものは、5年前からになります。他の研究も、全部有機EL関係なので、みんな5年前からです。

 

--今の先生の研究は、一人でやっていらっしゃるのですか?それとも、何人かで共同研究のようなスタイルでやってらっしゃるのですか?

森本:中先生も入れれば一人ではないです。中先生も、同じ専門である有機ELと太陽電池をずっとやられています。

有機ELに関しては中先生の方が圧倒的に古く、もう30年くらいやっています。中先生は、有機ELとか太陽電池、光デバイス全般をやられていますが、僕は太陽電池には手を出さないようにしています。有機ELと最近ではフォトダイオードを始めています。

 

--どのようにしてチームビルドをされていますか?

森本: 外部とは、テーマごとにそれぞれ別々です。例えば低電圧の話で言えば、論文を一緒に書いている伊澤先生と一緒にやっていますし、他のテーマで言うと、近赤外発光は企業さんから材料もらったり、金沢大の先生から材料いただいてやったりとか、材料提供してくれる人たちと共同研究しています。これは、テーマごとでバラバラです。

 

--チームビルド、きっかけについて教えてください。

森本:まず、伊澤先生の場合は、学会で知り合いました。伊澤先生自身が太陽電池の専門家で、今回の低電圧のデバイスは太陽電池のノウハウが入ってきているので、タッグを組むことで、新たな発見があり、こうやった方が良くなるんじゃないのとか、そういうことがいっぱいありました。学会での友達だったこともあり、話をしていて、これ、実はこうやったらうまくいくんじゃないのみたいな話からチームを組むことになりました。

近赤外の材料に関しても、前職のときの共同研究先の方ですね。その人の材料で、前職はセンサー関係をやっていたので、近赤外のセンサーをやっていました。センサーの材料として使っていたのですが、こっちに来てからはその方に一緒にやろうと言って、材料を貰ってチームを組みました。

また、金沢大学の先生に関しては、学会での知り合いであり、同じように近赤外の太陽電池をやっていらした方で、いわゆる材料合成屋になりますが、学会で知り合うことになるか ら、そこで、作っているなら頂戴という感じで組むことになりました。

 

澤田:一人でやっているというよりも、同じような分野、似たような分野でやっている人達といろいろ情報交換をやった方が、研究としてはやり易いですよね?

 

森本:やり易いというよりも、そのようなかたちでないと、今の時代不可能だと僕は思います。例えば、僕は化学が専門であると言いましたが、合成はできません。化学の中でも色々なジャンルがありまして、僕は、物理化学系ですので、本当の合成屋ではないから、有機化学の合成する人と組む必要があります。さらには、材料屋がいないと材料も買ってくるしかないから、そういう方と組む必要がでてきます。なので、有機合成の人と繋がるのは、すごく大事ですので、声を掛けているところです。

外の大学だけを見ているだけではなく、富山大学の先生にも声を掛けています。測定関係では結構いらして、例えば他学部の先生のところとも今回の僕らの低電圧のものを測定できませんかという話をしたことがありました。凄い高速分光でフェムトアンペア、フェムト秒とかで分子がどう動いているかとかを測定できます。

 

--測定に関しては別のスペシャリストがいるということですか?

森本:そうですね。全部自前では不可能です。僕らはデバイスを作り薄膜も作ります。一方で、測定に関して僕らは最低限の測定はできますが、フェムト秒の測定をしようと思うと、レーザー一本で1千万円なので買えないです。そういうネットワークが大事だと思います。

あと、ちなみに共同研究について、もう一つ実施しようとしているのは、他学科の先生の計算科学です。新しいメカニズムで低電圧をやろうとしているから、分子動力学で分子がどういう風に堆積していくかとかをシミュレーションしています。

 

--シミュレーションを先にやって、低電圧で動きそうだなというのをやりたいということですか?

森本:そう、それに目星をつけたいというのもあって言っていたのですが、そもそも、前例があんまりないので、まずは、そこからやろうかみたいな話です。まだ、ガッツリはやってないですがやり始めました。

 

--そういうネットワークがないと次の研究を考えるのは大変なんですね!

森本:そうですね。やっていることは、他の先生にやりませんかと声を掛け続けることで す。自分一人で出来るとは思っていないので、スペシャリストの手を少しずつ借りてやっています。

 

--POC後の共同研究についてですが、企業とはどのような取り組みをされていますか?

森本:共同研究で言いますと、これまでやってきたやり方としては、企業が試作品を作っていくにあたっての基礎研究、基礎評価を我々が担うことが基本的な共同研究のスタンスになります。

 

--企業とはどういう風につながっていますか?

森本:学会ですね。いまやっている共同研究も、学会先で中先生と知り合ってからスタートしたものが一つあります。

僕らが露出する場所は、学会しかないので学会以外にあり得ないと思います。企業は学会で発表はしないですが、情報収集だけをしています。そして、発表内容に興味を持っていただいたときに、声を掛けてきてくれます。

 

--今日のお昼から某大手企業と打合せすると思うのですが、それも学会で知り合ったのですか?

森本:今回は、僕の方から声掛けたのですが、学会後の懇親会でトントンと肩叩いて、ここまでできているからこれで研究しようと話をしました。

 

--光の三原色全部について発色ができるのですか?

森本:学会以外でも露出する場所が絶対必要だと思います。唯一いるなと思ったのがプレスリリースです。それから新聞とかいろんなところに載った後は、何社かから連絡が来ました。少なくとも引っかかったということは、一社、二社でもいいから、あるということなので、大事なのかなと思います。

 

--それはプレスリリースのやり方をもうちょっと変えてみるとか、露出の頻度を変えてみるとかですか?

森本:やっぱり頻度は大事なのかなと個人的には思います。それは、今回NEDOの研究支援で言われたのですが、色んな所に寄稿しまくれって言われました。論文だけではなく、色々な月刊誌にも寄稿したほうがよいと。

 

--商業化に向けて、ビジネスに近い話を聞いていきたいのですが、ビジネスプランについてはどのように考えていますか?

森本:この辺になると、低電圧の話になります。近赤外は、まだそこまで行ってないですね。特許収入で大学が儲かるというのは、なかなか難しいのかなと思っています。理由として は、特許を1個取っておけばいいやという時代ではなくなってきていると思うし、コア特許を1個取ったからといって、そこからライセンスフィーを取れる様な時代でもないと思います。

周辺特許をとれるかというと、僕にそういう知識はないため、専門家が周辺特許も固めて、毎回10個ぐらい出すような、きちんとした特許戦略を取ることができるのであれば、フィーで稼ぐというビジネスプランもありだと思います。

 

--そういう特許戦略については、実は産学連携本部がやっています。顧問弁理士を雇ってやっています。

森本:弁理士は、特許戦略は練れるけども、具体的にこのコア特許に対してどういう再特許を出せばいいという提案までやってくれないですよね?

 

--いや、ある程度やります。いまのコア特許を説明すれば、その周辺でどうしましょうとか、マップをどうしましょうとか、アドバイスがもらえます。

森本:そこまでやるのだったら、そういうのもありなのかなという気はします。

 

--そういうところで稼がないと、大学として研究者としてなかなか稼ぐのは難しいかと思います。

森本:なので、稼ぐ先として共同研究契約が一番やり易いのかなとは思っています。

 

--共同研究をやっても、実施期間だけですが、特許があれば、続きもできると思います。基本特許を抑えて、周辺抑えてというのは、ある程度産学連携本部でご協力させていただきます。実際に、医学系の事例にはなりますが、例えばチャイルドシート作るところで、実際にそういう話を進めています。

実際に、杉谷ですけども、弁理士資格持った人が、実際、富山大学 産学連携本部にいますし、その人で分からなかったら、弁理士事務所と連絡を密にとっていろいろやっていますから、その辺は、サポートができると思います。

特許事務所の、我々の弁理士資格を持った人がいろいろやって、自分たちで出来ない分は当然ありますから、弁理士事務所の専門家、それぞれの分野に長けた専門家、特許事務所が何種類かあるので、その方々に来ていただいて、ヒアリングして、どういう風にしましょうとか、もっと広い範囲で取りましょうとか、そういうことも出来ます。

 

--今の研究開発において大変な部分について教えてください。

森本:直近で言いますと、お金の大変さはないですが、長期的なお金が無いのが大変です。あとは、時間が足りない事です。

これも、みんな、同じことを言っていると思うのですが、僕自身、一昨年に准教授に上がったのですが、准教授に上がった途端に、時間が急に無くなったので、やっぱり違うなと思いました。

 

--それは雑用で忙しくなるということですか?

森本:雑用ではありませんが、学生を見る時間がすごく長くなりました。准教授に上がってすぐだったための配慮もあってか、授業数は変わっていませんが担任制の学生さんを見ていますので、それだけで結構な時間かかっています。助教はそういう教育配分が少なく、あると言っても、研究室の学生を見るだけでした。

今は、学部の学生も見るので、急激に時間が減ってしまいました。先日外部の照会で、何時から何時空いていますかと言われましたが、週に2-3時間しか空いていませんでした。授業数は殆ど変わっていないのに、授業じゃないところの時間をすごく取られてしまっています。

学生とのミーティングや面談を一人1時間やるだけでも、5人いたら5時間になりますので、多くの時間を取られてしまいます。

それも、皆さん似たような事言っていると思いますが。

そのへんは、教員あるあるなので、いいとしても僕自身研究開発で、何が大変かというと、時間がないということ含めて、自分が手を動かす時間が圧倒的に減ってしまったことです ね。自分で実験する時間が減ってしまったのが大変です。

今は研究費があるので、学生にアウトソースしている状態です。バイト代をきちんとお支払いして、僕の研究の仕事をしてもらったりとかしています。個人的には、お金があるのであれ ば、人を雇うなりすることはありだと思っているので、研究員とか雇えるのであれば良いのですが、そこまで定常的な研究員を雇うとなると、5年なり雇う必要があります。短期の派遣社員場合は、今度はそういう人に教育しなければいけないというのもあります。

長期雇用ができるような人も必要ですね。そうすると薄くてもいいから長期予算がいるのですよね。結果、学生にお願いする形になってしまいますが、あまりやりすぎると、学生の研究が進まなくなるので難しいと思います。

 

--産学研究をしようとしている若い研究者へのアドバイスをお願いします。

森本:個人的には、今の学生雇用の話にしても、特許の話にしてもそうなのですが、僕は民間に行ってからこちらに来たというのもありまして、人を使うことに余り抵抗がありません。

アウトソーシングにも抵抗がない、特許のことも抵抗がないですけども、若い研究者は、それらのことを知りません。抵抗というかそもそも知らないからそっちに行けないと思います。そういう若手の先生には、何か体験させてあげないと難しいのではないかと思います。

言い方が悪いですけれど、人を使役する、そういう経験を持った事がないままに、産学連携を本格的にやるとなると壁にぶつかると思います。人を雇って立ち上げることになりますので。基本的にドクターまでは、全部自分でやるのが正義ですので、そこが違うところになるかと思います。

 

--次期研究、今後の方向性はどう考えていますか?

森本:先ほど言ったように、僕がやりたいのは、薄膜構造を多層化制御した上で高性能なデバイスを作ることです。なので、それは別に有機ELに限定するつもりはないですので、そういう光デバイスに関連する事をやりたいと思っています。

そういう構造制御した上で発光なり受光なりまでデバイスの高性能化を目指したいです。共同研究含めて世の中に出したいというのは思いとしてあります。実際、僕自身、元々ベンチャーを志向していたということもありますので、世の中に出していきたいという気持ちは強いです。ただ、それをどうやれば出来るのかというところが難しいですが。

 

--この辺は産学連携本部と協力しながらやらせてください。

森本:そうなんですよね。ベンチャーを作るのは興味があるし、やりたいなと思っているのですが、自分がCEOをやるというのが、時間的制約があって現実的ではないと思います。となると外部からCEO雇うかとかになりますが、それをする原資がないとか、なかなか知らない研究に対して自分の人生を賭けられる様な人は、なかなかいないのでどうしようかなと思います。

 

--お時間いただきありがとうございました。