富山大学 研究者インタビュー#27
2025年2月25日12:00
真中 智世 先生
富山大学 都市デザイン系 助教
真中先生は、耐食性に優れた材料を開発するために、
特に表面処理の面からアプローチして研究を進めています。
トンネルの崩落事故、水道管の破損、線路の脱線など、大きな事故の原因が実は小さなボルトの『腐食』であることが少なくありません。真中先生は、表面処理の側面から耐食性を上げる研究を行っています。
「材料全体を、高耐食性の材料に変更すると、非常に大きなコストがかかります。私は材料表面のわずか300~400μmの部分に着目し、適切な処理を行うことで、高耐食性の材料を開発することを目的に研究を進めています。」
真中先生はこれまで、①電気化学処理、②レーザ熱処理の二種類の方法で表面の構造を変化させ、耐食性に優れた材料研究を進めてきました。この内容は富山大学で毎年開催されている研究成果報告会「Toyama Academic GALA 2024」で優秀賞を受賞しています。今回は、その内容について詳しく教えていただきました。
真中先生は医療用としてよく使用されているオーステナイト系ステンレスやジルコニウムを対象に電気化学処理を行い耐食性を向上させる研究を行ってきました。電気化学処理では、溶液(硝酸)に対象物質を入れ、電気を流すという一般的な処理を想定しています。この操作を適当な条件で行うことで、腐食の原因となる材料表面に露出した不純物を溶かし出して除去することができます。
「ステンレスでは通常腐食防止のために不働態化処理(表面に酸化皮膜を作製するもの)が施されますが、その際も電気化学処理を行っています。この際の電位や電流のかけ方を工夫することで、不純物を溶かし出す役割と不働態化を両立させることができ、より耐食性に優れた材料に加工することができることがわかってきました。」
図1 電気化学処理による表面構造変化のイメージ(真中先生ご提供)
レーザ熱処理は局所的に高エネルギーを与えることができる特性を持つレーザ光を用いた表面処理方法です。レーザは照射箇所(幅8~10mm程度)で急加熱と超急冷が生じるという特徴を持ちます。腐食を誘発する不純物は、加熱時に母材中に溶けこみ、その後の急冷によって核形成が起こる前に母材が凝固し、不純物を封じ込めることができるそうです(図2)。
「金属3Dプリンターでもレーザを使った造形がおこなわれています。そのようにして作られた造形物は耐食性が上がることは以前から知られていて、この現象に着目して研究を始めました。現在は特にマルテンサイト系ステンレスにレーザ熱処理を施し、手術用のメスや鉗子への活用を想定していますが、将来的にはインフラ材料などへの応用もできたらと考えています。」
さらに、ここで紹介した電気化学とレーザ熱を組み合わせたハイブリッド処理を行うことで、さらに優れた耐食性が得られることがわかっています。今後も、超高耐食性材料の開発を目指し、研究を進められる予定です。
図2 レーザ熱処理による表面構造変化のイメージ(真中先生ご提供)
富山大学の重点研究拠点・先進アルミニウム国際研究センター(Aluminum Research Center: ARC)にも所属されている真中先生は、耐食性向上を目的とした表面処理技術をアルミにも応用できないかと検討を進めています。今後の研究成果が期待されます。
また、耐食性や強度に優れると言われるチタンについても、これまでの研究成果と合金設計の手法を併せて、さらに過酷な条件での使用を想定した強度・耐食性に優れた材料の開発に着手されています。
「これから人口が減っていく中で、特に大型構造物においてはメンテナンスフリーといった視点は重要になると思います。それにはまず、とにかく強く腐食しない材料が必要だと考えています。何十年後も、何百年後も、使い続けられる安全性の高い材料を開発し、それが普及され、将来的には小型レーザなどで簡易に修繕ができるようになればと思います。今後の夢としては、自分が開発した技術や材料が、日用品や構造物など、広く社会で実装されることがあります。汎用的で『これを使っておけば大丈夫』という評価がいただける信頼性の高い技術が開発できればと思っています。」
真中先生の表面処理技術は多くの材料で応用ができる可能性が高く、特に耐食性に関して突破口となり得るものです。共同研究等のご相談はこちらのOneStop窓口からお願いします。
(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)
富山大学研究者プロファイルpure https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/tomoyo-manaka
Researchmap https://researchmap.jp/t-manaka
富山大学先進アルミニウム国際研究センター https://arc.ctg.u-toyama.ac.jp/