#28 大路 貴久先生

takahisa_ohji

富山大学 研究者インタビュー#28

2025年3月10日12:00

 

磁気浮上の可能性を

追求する

 

大路 貴久 先生
富山大学 工学系 教授

 

 

大路先生は、電磁力の発生原理に着目し、その応用技術開発に注力しています。

 ­

紹介

 磁力は非接触で物体に力やエネルギーを与えることができる代表的な物理現象です。磁石がなくても、コイルに電流を流すことで『電磁力』を発生させることができます。非接触でものを動かすことができれば、摩擦が発生しないためエネルギーロスがなくなり、部品も消耗しない魅力的な条件が達成できます。この現象は、リニアモーターカーなどの輸送機械以外にも、モーターやポンプなどの磁気軸受などに応用されています。
 富山大学工学部工学科電気電子工学コースの大路先生は電磁力応用技術、主に磁気浮上技術を研究されています。大路先生がこの研究を始めたきっかけは、磁気浮上の実験を見て、非接触でものが宙に浮くという現象の面白さに魅了されたことだそうです(磁気浮上の研究者なら皆同じなのではないか?と仰っていました)。そして現在も、先生と同じようにこの現象に魅了された学生が毎年研究室に配属され、磁気浮上の研究に取り組んでいます。

 

磁界を操り、モノを動かす

 小学校では磁石を近づけたときに鉄などの金属はくっつき(磁性金属)、アルミや銅はくっつかない(非磁性金属)と学びます。このため、磁気浮上技術で浮かせる対象物は磁性金属だけだと思い込んでしまいますが、電磁力の現象を応用すれば、非磁性金属でも浮かせることが可能です。時間とともに方向が変化する交流電流を流して磁界を発生させると、その磁界も時間とともに方向が変化します。そのような場に非磁性金属を置くと渦電流(うずでんりゅう)と呼ばれる電流が誘起され、元の磁界との間に反発する力を発生させることが可能になります。

 この技術は古くから『交流誘導式』磁気浮上として研究されてきましたが、大路先生はこれを応用した交流アンペール式を提案されています。従来の下からの交流磁界だけでなく、側面からも磁界を与えることでアンペール力という別の電磁力を生み出し、より強い力で対象物を浮かせることができるようになりました動画1)。

動画1 富山大学Youtubeより(https://youtu.be/7oF__N1lbIQ?si=wEO9z9Wgg2f5z14f)

 

 この技術をさらに発展させた研究も行っています。

「渦電流から作られる力は“反発する力”だけで、対象物を吸引しつづけるような力は作り出せません。そのため、従来の磁気浮上技術では交流電磁石は下方、浮かせる対象物は上方、という位置関係で重力と反発力を釣り合わせ、なおかつ、浮上を安定化させる条件を考えてきました(図1左)。しかし、実際には対象物の下方にものが置けないというシチュエーションも多くあります。交流電磁石を上方に設置した場合、普通なら重力と反発力が同じ方向なので落下してしまうのですが、側面からの磁界をうまく活用することで、下に装置を置かずとも対象物を引き上げる力を生み出すことに成功しました図1右)。」

 産業界ではものを持ち上げる場面がたくさんあります。ロボットアームに交流電磁石を設置して非接触で部品をつかんだり、天井に交流電磁石を設置して非接触で上からものをぶら下げたり、様々な場面での活用が期待できる技術です。

 

図1 交流誘導式(左)と交流アンペール式で交流電磁石を上部に設置した場合(右)の力のベクトル図。(筆者作成)

 

動画2 アルミリングの引き上げ実験(大路先生ご提供)

 

全方向360°で3D光造形を行う技術

 これまでの磁気浮上は、非接触=摩擦が発生しないという特性を生かして『運ぶ』『回す』という用途に使われることがほとんどです。大路先生は磁気浮上の新たな用途として、3D光造形技術への応用に挑戦しています。光造形は光硬化性樹脂液に光を当てることで層毎に硬化させていく造形技術ですが、終了時に造形物と土台を切り離す必要があり、その際バリと呼ばれる不完全な部分ができてしまいます。バリを極限まで減らすために、この樹脂液に磁性粉末成分を含有させ、液体を磁気浮上させながら3D造形する技術の開発に取り組んでいます。たくさんの要素が組み合わさったシステムで、日々試行錯誤しながら研究を進めています。

 

図2 制御電磁石先端と安定浮上中の磁性流体液滴(研究室HPより)

 

おわりに

 大路先生に研究に対する思いについて伺いました。

「特定の用途のために研究するという形もありますが、そればかりではダメだと思っています。既定路線をたどるのではなくて、自由な発想で、学生のアイデアも含めて原理を形に落とし込むことを大事にしたいと考えています。うまくいくとわかっているような研究は面白くありません。大学という機関ですので、成功するかしないか、50:50くらいの独創的な研究に挑戦していきたいとも思っています。」

 また、磁気浮上システムは検知や制御といった機械技術と融合が不可欠です。富山大学大学院では『メカトロニクスプログラム』を設置し、電気・機械・制御・設計など、一から全てを経験した技術者を育成しています。

 磁界といった見えない舞台を操る磁気浮上技術。この研究に取り組んでいると見えない磁界の様子も見えるようになるそうです。研究の歴史は長いですが、まだまだ未知の可能性を秘めた分野だと感じました。共同研究等のご相談はこちらのOneStop窓口からお願いします。

(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)

 

リンク先

富山大学研究者プロファイルpure  https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/takahisa-ohji

Researchmap  https://researchmap.jp/read0109073

富山大学工学部電気電子工学コース エネルギー変換工学研究室 http://enghp.eng.u-toyama.ac.jp/labs/ee02/

研究シーズ「電磁浮遊の活用事例」 https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/188

研究シーズ「磁気機能性流体を用いた磁気支持式3D光造形技術」 https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/308

研究シーズ「電磁力応用研究・開発」 https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/57

研究シーズ「非接触電力伝送に関する研究」 https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/56

富山大学Youtube Tom’sTV 2014 工学部 大路貴久 教授 (電磁力応用・電気機器・電磁界解析) https://www.youtube.com/watch?v=7oF__N1lbIQ