#26 保田 修平先生

shuhei_yasuda

富山大学 研究者インタビュー#26

2025年2月10日12:00

 

 

ナノスケールで

制御する化学反応

 

保田 修平 先生

富山大学 工学系 特命助教

 

保田先生は、触媒をナノスケールで超精密設計することで化学反応を制御し、

新規反応を生み出すことを目標に研究しています。

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紹介

 保田先生は原子レベルであるナノスケール(1ナノメートル[nm]=100万分の1ミリメートル[mm])かつ三次元空間で触媒設計を行うことで、今までにない化学反応を生み出すことを目標に研究をしています。触媒は、化学反応を効率よく進める役割を持ち、自身は変化しない物質で、多くの化学反応プロセスで用いられています。先生は、触媒材料そのもの、特に固体触媒の表面物性や活性点を観察・評価するといった研究のバックグラウンドをお持ちです。富山大着任後の2023年からは、より『化学反応』にフォーカスを当て、目的の化学反応を達成するため、ナノスケールで触媒を設計し、反応や反応経路を制御する研究を行っています。

 

触媒をナノスケールで『観る』

 固体触媒は、流体(気体や液体)と接触し、その接触面で化学反応を起こします。そのため、触媒表面で何が起こっているかを確認することが非常に重要です。
「私は学生の頃から、触媒表面の吸着、反応活性、疎水性、親水性、エネルギー状態や静電相互作用特性などをナノスケールで観察して評価するという研究を、その実験装置設計の段階から行ってきました。このような自分の強みをもって、CO2変換などのC1化学反応で突出した知識を持つ富山大学の椿先生とディスカッションすることで、これから新規材料・新規反応・新規反応経路を見出すことができるのではないかと考え、現在のポストで日々研究に励んでいます。」

 

図1 SEMで観察した触媒表面(https://doi.org/10.1016/j.cattod.2022.07.025)

 

固体触媒をナノスケールで『設計する』

 触媒を観る、評価するだけでなく、『設計する』研究も行ってきました。その目的のために先生が着目しているのはゼオライトです。ゼオライトは図2に示すような多孔質な結晶構造を持っており、細孔の直径が通常0.2~1.0 nm程度です。細孔内にはイオン交換サイトを有しており、そこへ金属粒子を配置することで触媒性を制御することが可能です。

 

図2 天然ゼオライトの一例(日本ゼオライト学会ホームページより)

 

 保田先生はこの細孔に金属の超微粒子を配置することに成功し、ナノサイズでの触媒制御・設計が可能となりました。また、ゼオライトの骨格構造は、天然・人工ゼオライトを合わせると250種類以上あり、それぞれの骨格で三次元構造が異なります。つまり、孔と孔の距離や孔の大きさがそれぞれ異なるので、目的とする反応物質や反応経路によって、緻密な触媒設計が行うことが可能です。

「触媒表面の物性によって、ここの場所では反応が起こるけど、その隣では反応しないし、反応物質がくっつくことすらしない。触媒表面といっても、ナノメートル単位で視点を変えるだけで、特性が全く異なります。どこに反応物質をくっつけて、どのような経路で、どのような反応を起こすのか、幅広い知識を集積して触媒を設計します。

 

図3 ゼオライト骨格を活かして設計した触媒例(https://doi.org/10.1246/cl.210563)

 

今後の展望

 これらの成果を活かし、保田先生はCO2の骨格をそのまま活かす化学合成を検討しています。

「現在のCO2変換技術は、CO2のC=O二重結合を切ってメタン(CH4)や一酸化炭素(CO)にしたあとに合成を行いますが、アルコール(R-OH)やカルボン酸(R‘-OOH)ではその骨格にC=O二重結合が含まれますので、CO2の二重結合を切らずにそのまま使用できると面白いです。現在取り組んでいる研究の中では触媒表面でできた反応性の高い物質をキャッチしてCO2と反応させることを考えています。その実現可能性はかなり高いところまできています。」

 

おわりに

 今回ご紹介した研究はごく一部ですが、ナノスケールかつ空間的に触媒を設計し、反応を制御することで、今まで成せるはずがないと言われてきた化学の常識を覆すことができる可能性があります。保田先生は現在人工で作ることができないと言われている自然に存在する酵素や天然物をも再現できると考えています。また、ナノスケール触媒が実用化された先には、家庭用のごみを原料に、オンデマンドで必要な燃料を製造できる小型反応器なども生まれてくると考えられています。

 工業化学の世界は「欲しいものを効率的に作る」に加え、「欲しいものを自由自在に作る」という価値が組み込まれて、今後も発展していくでしょう。

 保田先生との共同研究等のご相談は富山大学産学連携本部OneStop窓口までお願いします。

(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)

 

リンク先

富山大学研究者プロファイルpure  https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/shuhei-yasuda

Researchmap https://researchmap.jp/bakegakusho/