#22 大村 眞朗先生

masaaki_omura

富山大学 研究者インタビュー#22

2024年12月9日12:00

 

 

 

画像解析×AIで創る

次世代診断

 

 

 

大村 眞朗 先生

富山大学 工学系・准教授

 

大村先生は画像解析と人工知能を融合させた次世代の診断技術開発に向けた医工学研究をしています。

 ­

紹介

 超音波(エコー)を用いた医用画像診断は、非侵襲で簡易に行える技術として、腹部臓器検査や妊娠中の胎児モニタリングなど幅広い分野で活用されています。最近では超音波検査機器の性能が上がり、より高画質なデータを扱えるようになりました。しかし、医師や検査師のスキルや主観に左右され、機器の違いや条件設定によっても検査精度が異なる問題があります。
 工学部・知能情報コースの大村先生は特に超音波を用いた信号処理・画像解析技術の活用に取り組まれており、最近ではその技術に人工知能を取り入れ、検査の標準化、円滑化を目指した研究を行われています。2024年には超音波医学の分野で優れた研究や技術の発展に寄与した人物やグループに贈られる日本超音波医学会の菊池賞を受賞されました。

 

超音波で診る血液の「中」

 現在、血管のモニタリングにも超音波検査が取り入れられており、血液の速度や血管壁の厚みを測定し、動脈硬化や血栓などを見つけるという用途として標準診療で使用されています。大村先生はこれまでの研究で、従来はノイズレベル程度で、描出が難しかった血管内の血液の「中」の情報を開発した信号処理手法で可視化することに成功しました。特に、炎症の度合いを示すとされている赤血球の凝集や血液の粘性などが可視化できるようになりつつあります。

「採血検査でも炎症の数値はCRPという指標で確認することができますが、体内のどこで炎症が起こっているかを特定することはできません。超音波を使用して赤血球の凝集状態を検査すれば、どの部位で炎症が起こっているのか特定することが可能になります。そもそも血液の状態で超音波エコーの見え方がどのように異なるか、検知できる血液中の情報には医学的にどのような意味があるのかはっきりわからないものもあります。究極は超音波で非侵襲に採血結果が分かればいいなと考えており、医学のニーズと融合させることで新たな用途の発見などにも繋がると考えています。」

 

図1 上腕静脈の血流エコー像と開発した信号処理手法による血球凝集サイズの推定結果(安静時と駆血解放後拡張期血圧(血圧低下時)における比較)。血圧低下時に血球凝集サイズが大きくなっていることがわかる。(大村先生ご提供)

 

局所麻酔管理における微細血流イメージングの応用

 この技術は、現在富山大学の麻酔科学講座との共同研究で用いられています。帝王切開時は脊髄くも膜下に局所麻酔を打ち、胸から足先までの痛みや感覚をなくします。麻酔が効いている範囲の確認にはアイスパットが用いられ、冷たさを感じなければ麻酔が効いている、というように現在も古典的な、人の感覚に頼る手法で行われています。そこで超音波を用いると血管の拡張度合いで部位ごとの麻酔の効きが判断でき、より客観的な判断が行えるのではと考えています。近年普及してきた高周波超音波(10~30 MHz)の撮像技術と開発した信号処理手法を用いると、数十ミクロンメートルオーダーで微細血流が可視化できるようになり、臨床試験での有用性の評価を行っています。

 

人工知能(AI)を融合した超音波検査の円滑化・標準化

 2024年、大村先生はこれまで所属していた医用情報計測学研究室から人工知能研究室に異動されました。これまで培ってこられた信号処理・画像解析技術にAI技術を融合させることで、より研究内容を発展させるためです。これまでに、AIを活用した研究成果として、血管超音波観察時に、血液エコーに生じる高輝度エコー帯を自動的に検出する方法を発表しました。高輝度エコー帯は赤血球の形態情報の違いや血小板などを捉えていると考えられ、機器の設定条件に依存しにくく、数百マイクロメートル四方レベルの画像の違いを瞬時に見つけることが可能となります。この方法には、数値シミュレーションデータを事前学習させた畳み込みニューラルネットワーク(CNN)のセグメンテーション手法を用い、実測データの安定化を図るために独自の工夫が取り入れられています。CNNとは画像認識の人工知能の一種であり、画像の特徴を判断する用途に使用されます。研究を主に進めてくれた修士学生と日々議論をし、得られた成果です。このような考え方をベースに、今後は病変分類、組織のセグメンテーション、画質向上など、広い用途・目的に応用されていく予定です。

 

図2 数値シミュレーション結果(正解が分かるデータ)を用い、CNNの1種のU-Netで学習を行う。実測(正解はわからない)データとの敵対的学習を行い、実測データでの検出精度を安定化させようとする独自の方法を取り入れた。

(Y. Mori, M. Omura, H. Hasegawa et al., Jpn. J. Appl. Phys., vol. 63, 2024. https://doi.org/10.35848/1347-4065/ad3834)

 

おわりに

 信号処理・画像解析技術は機械・解析技術の進歩に伴い、今後の医療における活用方法も大きく広がる可能性を秘めています。さらにAIを活用することで、機器の条件設定や操作のスキルに依存することなく正確な診断が行えるようになる未来が目前まで来ています。

「超音波をはじめ、画像診断は私たちが想像している範囲を超えて広く活用できるものだと考えています。医学界に存在するニーズとマッチングさせ、医工学分野の新しい領域での活用可能性を見つけていきたいと思っています。新しいAIモデルの開発のみならず、データの前処理や実際のデータ固有の特性の問題解決も行っていきたいと考えており、医工学分野におけるデータ活用のきっかけがありましたらぜひお声がけいただければ幸いです。」

 共同研究などのお問い合わせは富山大学産学連携本部OneStop窓口までお願いします。

 

(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)

 

【研究室が所有する技術】

高フレームレート(1万 fps)超音波エコー計測システム、100 µm~1 cmの血管模擬ファントムと定常・拍動流ポンプシステム、超音波散乱波解析、超音波流速解析、医用画像処理のための深層学習モデル開発

 

【リンク先】

富山大学シーズ集「データサイエンスによる医用超音波診断システム開発」 https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/356

富山大学研究者プロファイルpure https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/masaaki-omura

Researchmap https://researchmap.jp/MasaakiOmura

富山大学 医用情報計測学研究室 http://www3.u-toyama.ac.jp/hase/index.html

富山大学 人工知能研究室 http://enghp.eng.u-toyama.ac.jp/labs/ii07/