インタビュー(大西 宏治教授)

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今回は、人文学部教授・大西宏治氏へのインタビュー記事を掲載します。

研究内容について:GISを活用し人々の空間的な行動を捉える

ーーまず大西先生の研究内容について教えてください。

大西氏:私の専門は人文地理学です。人文地理学は、幅広い研究分野を持つ学問ですが、私は特に街づくりに関わる研究を中心に行っています。街づくりの中でも地理情報システム(GIS)を活用して人々の空間的な行動を捉えて、都市であったり農村であったり、様々な地域での人の暮らしが抱えるような課題を取り上げています。

具体的には、人々の移動の軌跡を追跡し、どこに人が集まり、どこへ移動していくのかを分析します。そして、その移動に伴って生じる問題や、人々が暮らす自宅周辺で直面する課題を調査しています。私は地理学者として、これらの現象を地図上に載せて可視化し、詳細に検討するという研究をしています。

ーーつまり、GPSのような技術を用いて、多くの人々が日々持ち歩くデバイスからデータを収集し、その移動軌跡を追跡するということですか?

大西氏:はい、GPSを活用する方法のほかにも、最近は色々な企業でビックデータが販売されているので、それを活用させていただいております。

ーー人々の移動を追跡するGPSデータのようなものを提供する企業が増えているということですか?

大西氏:そうですね。例として、メディアがコロナ禍で頻繁に報じていた人流データがあります。これらのデータは企業によって提供されていました。このようなデータは、ヒートマップとして表現され、販売されています。ヒートマップは、人の動きを直接捉えるわけではありませんが、どの場所に人が集中しているかは把握できます。

例えば富山県内であれば、ファボーレ、イオンモール高岡、アウトレットモールなどの商業施設が人が集まるスポットとして表されます。

研究の特徴について:3つの事例

事例1 :富山市スマートシティー

ーー研究内容の概要についてお伺いしましたが、研究の特徴についてもう少し詳しく教えていただけますか?

大西氏:私の研究は、特に富山市を対象に行っています。富山市はスマートシティの実現に向けて積極的に取り組んでおり、この取り組みの一環として構築されたセンサーネットワークを利用した実証実験を行っています。富山市のスマートシティ化への取り組みは、都市の持続可能性と住民の生活の質の向上を目指しており、私の研究はこの背景のもとで行われています。

センサーネットワークを通じて、低容量でも様々な情報を収集できます。例えば、GPSもその一つで、多くの人にGPSセンサーを持たせて活動してもらうことにより、私たちは物理的にGPSデバイスを回収することなく、そのデータをリモートでサーバーに直接アップロードさせることが可能です。

このセンサーネットワークを用いた実証実験を通じて、私たちは大規模な人流データや人々の活動パターンに関するデータを収集し、それらを分析しています。

この研究は、産学連携ではなく受託研究の形態をとっています。富山市が進めるスマートシティの一環として、地域連携による子供の見守り事業(https://www.city.toyama.lg.jp/shisei/seisaku/1010733/1010734/1011493/1003036.html)に関わってきました。この事業では、児童の登下校時の移動軌跡を分析することが私の主な任務で、この5年間継続して取り組んできました。

今年、ついに全ての小学校の分析を完了する予定です。対象となった学校は、総計で60校程度あり、これら全校のデータ分析を行ってきました。

ーーその研究では、小学生にGPSデバイスを持たせるのですか?

大西氏:はい、保護者の承諾を得て、小学生のランドセルにGPSデバイスを設置させていただきました。これにより、児童の登下校時の移動軌跡を捉え、分析する研究を進めてきました。

ーー集めたデータを後でデータベース化し、分析するという流れですか?

大西氏:その通りです。例えば、富山駅の北側に位置する奥田小学校の学区を見てみましょう。登校の様子を観察します。

(データを見ながら)

ここでは、1分ごとにデータを収集しており、時間が進むにつれて小学生の動きが見えてきます。現在時刻は7時10分で、まだ小学生の動きは見えませんが、もうしばらくすると、彼らが動き出すのがわかります。

このデータを通じて、小学生たちがどこに集まり、どの交差点が混雑しているか、踏切をどのタイミングで渡っているかなどの情報が明らかになります。

通過交通が多いと制御が難しいですが、地域住民に対して、「例えば7時42分から5分間、この道を小学生が通る」といった具体的な情報を提供できます。これにより、車で出勤する人々に対して、その時間帯を避けて出発してもらうよう依頼することで、子供たちとの遭遇を避けることが可能になります。

また、旗当番などの子供の見守り活動に従事する保護者にとっても、必要なのは特定の短い時間帯だけであることが明らかになり、効率的な見守りが可能になります。

さらに、子供たちが集まる場所も把握できるため、その交差点の安全対策について行政や警察と協議することが可能になります。

このように、問題を可視化することで、初めて様々な課題を他のステークホルダーと協議できるようになります。単に問題を訴えるだけでなく、「このような状況です」と具体的に示すことができるのは、非常に重要だと思います。

ーーつまり可視化することで、関係者全員が問題点をより明確に理解できるようになるということですね。

大西氏:その通りです。保護者だけの言葉に頼るのではなく、実際のデータで具体的に示されるわけです。今まで見えなかったものが見えるようになるのは、非常に重要なことだと思います。これは私たちが使用している地理情報システムの大きな特徴の一つです。

登校時は、全員が決められた時間までに学校に到着するため、時間帯が比較的短くまとまっていますが、下校時は少し複雑です。

ーー下校時は時間帯がバラバラになるのですね?

大西氏:そうです。学年によって下校のスタート時間が異なります。現在、2時台の動きを観察していますが、低学年の児童たちが帰宅を始める様子が見られます。ランドセルにはGPSと加速度センサーが取り付けられており、児童が動き出すとデータが反応し始めます。

低学年は「終わりの会」が終わってから特に動きが活発になります。この時点で、低学年の児童たちだけが一斉に動き出します。

学校に残る児童もいるものの、多くの児童は同じ時刻に学校を出ます。登校時とは異なり、帰宅時には友達同士で一緒に帰ることが多く、自分の家の反対方向に帰る児童もいます。

このように見えないものを可視化するというのが私たちの仕事の1つだと思っています。

ーー追跡データを集めて現象を可視化し、捉えるということですね。

大西氏:子供たちの登下校は見えるものの1つかもしれませんが、それを地図上で可視化することと、実際に子供たちが歩いている現象とは違った意味を持つと考えます。

事例2 :NECソリューションイノベータとの取り組み

次に、産学連携の事例として、NECソリューションイノベータとの取り組みが挙げられます。これは、データサイエンスの授業の一環として学生たちと共に実施されました。このプロジェクトでは、大学生にカターレ富山のサッカー試合を観戦してもらい、その観戦後の二次行動や三次行動の有無を調査しました(図は令和4年度 富山市センサーネットワークを利活用した実証実験報告書より抜粋)。

学生にはサッカーチケットと事業で使用する通貨を配布し、試合観戦をしてもらいました。このスタジアムは富山県の総合運動公園内に位置し、富山市の南部にある空港の近くで、アクセスが不便な場所にあります。移動手段として車、自転車、公共交通機関を利用しましたが、調査の結果、ほとんどの学生がスタジアムから直接帰宅しており、他の場所に立ち寄ることはほとんどありませんでした。これは、サッカー観戦が二次行動につながることはなかったことを意味しています。

自転車や自動車を利用する学生の中には、数例ですがアピタ富山店やマクドナルドに立ち寄るなどの二次的な活動を行うケースがありました。この立ち寄りに関する分析から、友人2人で移動する場合は、偶然見つけたサイゼリヤに立ち寄ることがあるものの、6人のグループではそのような行動が取りにくいことが明らかになりました。この現象は、グループの大きさ、コロナ禍の影響、大学生同士の先輩後輩関係など、多様な要因によって変化することが示唆されています。コロナ禍による外食への抵抗感や、現代の大学生が周囲への配慮を重んじる傾向にあることから、学生たちが外食をためらうことが観察されました。これは、学生たちの遊びに関する当初の予想とは異なる結果を示しています。

ーーこのデータはコロナが流行っていた時期に収集されたものですか?

大西氏:去年の今頃(2022年11月)のデータですね。コロナの流行が少し落ち着き始めていた頃です。

富山県の総合運動公園でのサッカー観戦は、主に車でのアクセスが必要な場所にあるため、観客が試合後に直接帰宅する傾向にあるのかもしれません。しかし、前年に富山市体育館で行われたグラウジーズのバスケットボール観戦では、会場が富山駅北に位置しているにも関わらず、同様に観客は車で来場し、試合後にはすぐに帰宅していました。これにより、試合当日に二次的な活動が起こりにくいことが明らかになっています。

これらの研究では、スポーツイベントだけでは地域の賑わい創出には限界があることが分かりました。ただ、グラウジーズのブースター(サッカーにおけるサポーターに相当)の活動には、注目すべき点があります。彼らは試合がない日でも、グラウジーズにゆかりのある場所で友人たちと集まり、飲み会を楽しんでいます。サッカーやバスケットボールの試合が地域に活気をもたらすためには、試合当日の観客だけに依存するのではなく、ブースターの行動を読んだ「仕掛け」を作ることが重要であるとも言えます。

事例3 :トヨタモビリティ富山との共同研究

最後にトヨタモビリティ富山との共同研究をご紹介します。これは昨年、トヨタモビリティ富山を中心に構成された大規模なグループで実施されたプロジェクトで、私と都市デザインを専門とする先生が共同で取り組みました。この研究では、トヨタ自動車が開発に関わった近距離移動用モビリティデバイス「WHILLⓇ」を使用して、人々が実際にどのように外出するかを調査しました。

WHILLⓇは電動車椅子と同じ仕様で、ユーザーが自分で操作可能です。この研究では、10名の参加者にWHILLⓇを1週間貸し出し、その間GPSセンサーを持って日常の活動を記録させてもらいました。

まず、身体に制約を持つ男性の例を紹介します。彼は脳梗塞を患っており、自力で歩行することができません。奥様は彼を車椅子に乗せ、押して移動を支援していますが、これは体力的に非常に負担が大きいです。しかし、彼がWHILLⓇを使用し始めてから、サポートする側の負担も軽減されました。さらに、彼自身が操作レバーを用いて前進や後退を行うことができるようになり、普段は接点のない人々とも顔を合わせ、会話を楽しむことができるようになりました。これにより、彼の満足度は大きく向上しました。つまり、WHILLⓇの使用により自ら動くことができるようになったことで、彼の生活の質が顕著に改善されたのです。

次に、73歳の女性の例を紹介します。彼女は日常的に歩行器を使用し、過去に電動車椅子も利用していましたが、買い物などには苦労しており、主に訪問販売を頼りにしています。彼女の配偶者は施設に入所しており、彼女は毎日施設を訪れたいと考えています。しかし、自分で運転することができず、近所の人や自分の子どもに頼ることは可能でも、頻繁に訪問することは難しい状況でした。

しかし、WHILLⓇを貸し出したところ、彼女は毎日配偶者を訪ねることが可能になりました。着替えを持って行くなど、さまざまな目的で施設を訪れています。これは、彼女が約2kmの距離を毎日自立して移動していることを意味します(図は令和4年度 富山市センサーネットワークを利活用した実証実験報告書より抜粋)。

彼女の行動からは、外出したいという願望とともに、自立した外出行動が可能になったことが伺えます。

ーーそれはWHILLⓇのメリットですね。普段は車椅子を使っていたのですか?

大西氏:普段は車椅子を使用していましたが、不便を感じていました。WHILLⓇを使うことで、スーパーやコンビニにも直接入店できるようになり、彼女の生活が大きく改善されました。

最後に、93歳の方の例を紹介します。この方は90歳までトヨタクラウンⓇを運転しており、娘さんから運転をやめるよう促され、運転免許を返納しました。その後、アシスト付き自転車を購入しましたが、それが危険だと娘さんに叱られ、使用を諦めました。そのような状況の中で、WHILLⓇの実証実験に参加する機会を得ました。

WHILLⓇの使用を始めてから、パークゴルフ場に出向いて「みんな元気か」と仲間たちと交流したり、近所のお店で買い物をするようになりました。WHILLⓇのおかげで散歩がずっと楽になり、思っていた以上に遠くまで出かけられるようになったことで、友人に会う機会も増えました。

この研究の魅力は、位置情報を活用してこうした個々のポジティブな変化を可視化し、個別に分析できる点にあります。データをただ集めて解析するだけではなく、参加者一人ひとりがどのように良い影響を受けているかを具体的に明らかにすることが、この研究の特徴です。

 

ーー普通、データ収集と聞くと大規模な動向を捉えるものと思いがちですが、実際には個人の行動パターンを詳細に追跡できるということですね。

大西氏:そして、その人の状況を詳細に説明できることが大きな特長です。

一方で、データの提供には注意が必要です。個人情報に触れる可能性があるため、慎重に扱う必要があります。しかし、具体的な例を挙げることで、大量のデータを一般化して説明するよりも説得力が増すと考えています。

WHILLⓇを利用する上での課題の一つが、保管場所の確保です。納屋がある富山の家庭のように、適切な収納スペースがあれば問題ありません。しかし、カーポートなどで保管する場合、盗難のリスクが高くなります。

 

ーーWHILLⓇは自転車の代替になりますか? 

大西氏:WHILLⓇは徒歩の代替としては適していますが、自転車の代わりにはなりません。自転車は時速約18kmで走ることが可能ですので、速度や距離を稼ぐ点では自転車が優れています。

また、車道を走る必要がある場合も、自転車の方が適しています。WHILLⓇを含む電動車椅子は基本的に歩道を走るため、橋を渡る際には困難が伴うというのが実際のところです。

研究の契機:現在の研究に至るまで

ーーさまざまなデータを可視化する取り組みを行っていることがわかりました。このような研究はいつから始められたのですか?

大西氏:街づくりや地理情報システムに関する研究は、実に30年ほど前から行っています。地理情報システムを活用し、統計データやインタビューを通じて地域に関するデータを作成していました。

位置情報を利用し始めたのは2019年からになります。富山市のスマートシティ構想に基づくセンサーネットワークの活用が始まり、そこから位置情報データの収集を始めました。

 

ーー地理情報システムがなかった時代には、どのように研究を行っていたのですか?

大西氏:地理情報システムが普及する以前は、地域内のさまざまな現象を空間的に把握する研究で、より原始的な手法による情報収集と、その情報を地図にマッピングする作業が主流でした。

たとえば、人々の移動パターンを詳細に追跡するのではなく、「大学から出て〇〇に行き、その後買い物をして富山駅に向かい、魚津まで帰る」といった移動経路を言葉で収集したものを地図上に表現していました。

今では、このような研究をはるかに効率的に行えるようになりました。

 

スタートは子どもの生活空間に関する研究

ーー現在の研究を始めるきっかけについて伺いたいのですが、研究者としてのキャリアをスタートした当初からこのような研究をしていたのでしょうか?

大西氏:私の場合、地理学における取り組みは、主に生活空間、特に子供の生活空間に関する研究から始まりました。

もともとは、子供たちの生活空間に焦点を当て、どのような場所で遊んでいるのか、また時代とともに遊び場がどのように変化していったのかについて考えていました。その後、その研究から発展し、人々が利用する街や街づくりへの関心が高まりました。地域内の課題を特定し、それを可視化して、さまざまなステークホルダーと協力して解決していく取り組みに興味を持つようになったのです。

時期は2000年頃だと記憶しています。研究者としてのキャリアをスタートさせた頃から、地域の課題をステークホルダーと共に可視化し、解決することに関心を持ち始めました。

当初は前述したように、地図の上に様々な情報を載せ、手書きの地図を用いてみんなで議論を進めるという形でした。その後、地理情報システムの普及により、より多様なデータを用いて、さまざまな要素を含めた検討が可能になり、現在の研究へと繋がっています。

また、位置情報を用いた可視化が可能になった現在、地域のさまざまな要素を可視化し、課題を明らかにし、共同で検討する作業をより効果的に進めることができるようになったと感じています。

データはあくまで出発点に過ぎない

ーーこれは、データサイエンスの分野に近いと思いますが、いかがでしょうか?

大西氏:最初はデータサイエンスを意識していなかったのですが、結果としてデータサイエンスと似たような領域に収斂していきます。

データサイエンスと同様に可視化を行っていますが、答えが必ずしも可視化されたデータの中に存在するわけではありません。重要なのは、そのデータが示唆する意味や課題を読み解き、さらに人々がどのような街を望んでいるかについての願望を掘り下げて考察を始めることです。

また、分析においては、立場性というものが関与してきます。どのような地域を目指すかという思いによって、見えるものが変わってきます。人によって捉え方が異なるからです。

 

ーー同じデータを見ていても、異なる観点からの分析によって、それぞれ違う結果が導き出されるわけですね。

大西氏:我々の学問の領域は、根拠のない推測ではなく、「このデータに基づけば、ここまでの結論を導くことができます」という立場を取ります。さらに、それ以上の推論に関しては、「ここまでは明言できますが、それを超える部分は皆さんの考察に委ねられます」という形で、ある程度の相談に応じることができる、というのが私たちのアプローチです。

研究を進める上で難しい部分について

ーー現在の研究で特に大変だと感じていることがありましたらお聞かせいただけますか?

大西氏:人の流れを捉えて可視化し、街作りの中での課題を明らかにすることが研究の一環です。しかし、たとえ街の課題をある程度理解したとしても、それが直接的な解決策に結びつくわけではありません。課題の特定はできても、その解決方法については、各ステークホルダーが考える必要があります。

 

ーー一定の提案をすることはありますか?

大西氏:はい、提案可能な事項については提案しますが、未来に関しては、むしろ「相談」の形をとることが多いです。私たちは提案することもありますが、それよりも重要なのは、関わる全員が主体的に考え、行動することです。私一人が研究に励むだけでは、大きな進展を期待することはできません。

彼らを本気にさせるようなデータを示す必要がある

ーーそれが研究を進める上での難しい部分ですか?

大西氏:そうですね。研究開発を行う上で、最終的には自分たちの努力だけでは解決できない問題に直面することがその難しさです。

また、関係者が真剣に考えるためには、彼らを本気にさせるようなデータを示す必要があるということですね。

産学連携:企業による課題提起からスタート

ーー次に、企業との産学連携についてですが、どのような形で連携がされていますか?

大西氏:企業がビジネスチャンスと見なすような課題に対して、私は位置情報を使い、それを可視化してさらに分析します。もし企業が位置情報をビジネスチャンスと認識したり、自社のノウハウを活かせる機会と見たりした場合、私たちはその情報の分析を行うことになります。

 

ーー産学連携プロジェクトや企業との協力については、どちらから話が始まるのですか?

大西氏:基本的に、企業側からのアプローチです。企業が産学連携本部に話を持ちかけてきます。そして、適切な担当者を探す過程で、「位置情報なら大西先生の専門分野ですね」と産学連携本部から指名を受けることがあります。

また、NECソリューションイノベーターとの研究は、データサイエンスの授業で共同で取り組んだという経緯があります。その前の年には富山グラウジーズ、その年にはカターレ富山のプロジェクトも、すべてNECソリューションイノベーターからの提案でした。

産学連携:将来取り組みたい企業や組織

ーー今後どのような企業や組織との連携を進めたいと考えているか、そのような希望があれば少しお聞かせいただけますか?

大西氏:これまで取り組んできたのは、移動を扱う企業や情報を取り扱う企業との連携が主でしたが、今後はもう少し街づくりそのものに関わる不動産業や、異なる種類のサービス業、商業分野などと、位置情報を活用したプロジェクトを進めていけたらと考えています。

ただし、産学連携の提案が企業側からでない場合、資金面での制約もあって、こちらから積極的に動き出すことは難しいというのが実情です。

また、現在2年生が多いため、学生と一緒に取り組めればよいと思います。

将来取り組みたい研究テーマについて

ーー次に、先生がこれからどんな研究テーマに取り組みたいと考えているか、研究の計画などがあれば、教えていただけますか?

大西氏:富山大学の学生のうち、わずか25%が富山県出身で、残りの75%は他県から来た学生です。これら外部から来た学生が富山県にどれほど満足しているか、その満足度を向上させることが大きな課題となっています。この問題を街全体の満足度の観点から捉え直し、私たちに何が改善できるかを考える必要があります。

そこで大学生が街の中に様々な価値を加えていく活動を支援し、彼らが街を使って楽しいと思い満足度を上げることが出来ればと思います。そういうことを空間的な視点から考え、位置情報を活用して課題を解決してみるということをしてみたいと思います。

街中で何が楽しいのか、若者にとって価値があると感じられるものは何かを探求し、その価値を提供したり、新しい楽しみ方を創出することが、人々の動きや街全体の住民の活動とどのように関連しているかを捉え、それを解析し説明していきたいと思っています。

 

ーーデータサイエンスだけではすべての問題を解決できないかもしれませんね。

大西氏:そのため、私たちはみんなでその意味を深く考えなければならないでしょう。

また、商売に長けている人は、どのようなアクションに対してどのような反応が返ってくるかという感覚を持っていると思いますが、私たちはその側面を空間の視点から検証できるのではないかと考えています。

若い研究者へのアドバイス

ーー最後に産学連携や研究に取り組もうとしている若い研究者へ、今後どのような方向性を目指すべきか、あるいは具体的なアドバイスがあればお聞かせください。

大西氏:私は文系の研究者として、純粋なアカデミックな研究の中で産学連携がこれまで難しいと感じてきました。しかし、最近では企業を含む様々な分野で価値観が多様化しており、私たちの研究が思いがけず他者に価値を見出される可能性があります。

特に、多様性を重視する現代社会では、自分の研究が産学連携の文脈で企業にとって価値あるものと見なされることもあるでしょう。自分では気づかなかった研究の価値を他人が見出してくれることもあります。そのため、自分の研究を様々な方法で積極的に発信し、他者が気づきやすいようにすることが重要だと思います。

自分の研究を積極的に発信し続けることが重要

自分自身では、自分の研究の価値を完全には理解できないかもしれません。つまり、価値の捉え方が変わるということです。研究としての価値は自分でも認識できると思いますが、全く異なる観点から見たときには、新たな価値が見出される可能性があるということです。

研究を進める上で、自分の成果を積極的に発信することが重要です。そうでなければ、その価値を広く認識してもらうことが難しくなります。そのため、研究成果に自分だけが満足するのではなく、可能な限り多くの人に公開し、広く多くの人の目に触れさせることが必要だと考えます。

 

ーー発表や社会への情報公開の形態は、主に学会発表が中心でしょうか?学会発表が中心だとすると、その影響範囲はやや限定的になってしまいますね。

大西氏:そのため、産学連携などでテーマを募集している際に自分の研究テーマが直接該当しない場合でも、試しに応募してみたり、ウェブ上で自分の研究を発信するなど、さまざまな方法で情報を積極的に公開することが重要だと思います。

文系分野では基礎研究が多く扱われ、その学術的価値の積み重ねが重要視されます。しかし、異なる視点を持つ企業がこれを見た場合、気づかれていない多様性の価値を発見する可能性があります。例えば、SDGsを視野に入れて考えた時、独自の価値が明らかになり、新たな議論を生む可能性があるのです。

ーー発信の重要性が改めて感じられますね。本日は貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございました。