富山大学研究者インタビュー#16
2024年9月2日12:00
”流れ”を活かして
モノをつくる
加瀬篤志先生
富山大学 学術研究部工学系・講師
加瀬篤志先生は、流体に関する研究をしています。
私たちは流れるものに囲まれて生活しています。地球が覆われている大気も常に流れており、流れから逃れることはできません。幅広い分野の現象を流体工学の切り口でとらえて、実用化を目指した研究に取り組まれているのが機械工学コース講師の加瀬篤志先生です。「流体工学が関わる分野は多岐に渡ります。私も風車などの大きいスケールのものから、マイクロオーダーの血液中の細胞、さらに人の動きなどの流れも対象にして研究を行っています。」
加瀬先生は元々昆虫がお好きで、大学4年生のとき流体工学・バイオメカニクス研究室に所属し、昆虫を対象とした流れを扱ったことが研究者としての始まりだそうです。富山大学に着任されてからは2021年に退官された川口清司教授と共に風車などを題材とした研究に取り組まれ、研究の幅を広げてこられました。「流れ」を捉えて、活かし、有益なモノづくりに貢献されているのが加瀬先生の取り組まれているテーマの特徴です。この記事では数あるテーマの中から抜粋して紹介していきたいと思います。
大学4年生の時から現在も力を入れて取り組まれている研究は、蚊やハエなど昆虫のように小型化した飛翔体に関するものです。「昆虫レベルの大きさまで小型化が実現すれば、なかなか入れない場所を検査したり、農業の分野では受粉などを行わせて収穫量をアップさせたり、はちみつを作ったりということも可能になるので、この技術が確立されれば新しい世界が開けると思います。」
現在ドローンなどでは回転翼が使われていますが、その小型化や高効率化には限界があるため、別の飛行方式が求められています。それを実現するために、先生のグループでは昆虫、特に蚊やハエなど2枚の羽で飛ぶことができる昆虫に着目しています。「2枚羽の昆虫は進化過程の後期に生まれたものなので、飛行特性としても優れた点があるものと考えています。それらの昆虫に倣ったモデルを作り、その羽の動きや位置、角度などを変化させることによって周りの空気の流れ、すなわち飛行特性がどのように変わるか実験・解析しながら改良を進めています。」
さらに、ただ昆虫を模擬するだけではなく、昆虫が工夫している点をさらに強化したり、できない動きを補ってあげたりする中でより優れた飛行特性の実現を目指しているそうです。「生き物を真似するだけではなく、さらに良いものに改良できるというのが人工物の強みだと思います。」
図1. 蚊に倣った飛翔体モデルの一例
別のテーマでは風車の研究もされています。通常の風車は扇風機のような形状で、風向きが変わったときには、エネルギーを使用して風車の向きも変える必要があります。加瀬先生のグループが開発した風車は垂直軸型(図2)で、ブレード(外側の翼)だけではなく、内側に流れをコントロール(整流)するための特殊な形状のガイドを設置していることが特徴です。この形状を利用することで、どの向きから風が吹いても発電用のエネルギーに活用でき、ガイドの整流効果で、より効率的にエネルギーを得ることができます(図3)。この研究成果は、製品化を視野に入れた応用研究から製品開発を推進している産業応用工学会の論文賞として2019年に表彰されました。
「使用する条件や求められる性能によって、最適な翼の形状や枚数も異なると思います。共同研究にあたっては、その背景を考慮し、私たちが持つ基礎知見を応用させていくことで、社会実装まで繋げることが可能だと考えています。」
図2. 垂直軸型風車のイメージ(加瀬先生ご提供)
図3. 垂直軸型風車の性能向上に関する実験・数値シミュレーション
https://doi.org/10.12792/jjiiae.7.2.77より抜粋(加瀬先生ご提供)
大学院では循環器系、呼吸器系のテーマ、特に赤血球に関する研究に取り組まれていた加瀬先生は、最近開発が進んでいる医療検査技術の領域にも携わっておられます。リキッドバイオプシーは採取した血液や体液を解析して診断や治療に活用する技術ですが、そのマーカーとして注目されているものにCTC(血中循環腫瘍細胞)があります。CTCは血中に侵入した癌細胞であり、転移を引き起こすとされています。しかしサイズが小さく、血中濃度も低いので効率的に捕捉できる手法が求められてきました。
加瀬先生は富山県のベンチャー企業である株式会社Cytona、富山大学工学部の伊澤精一郎教授(流体工学)、寺林賢司准教授(機械情報計測)、岩崎真実助教(強度設計工学)と共同でその手法の開発に取り組まれています。最近では図4のように効率的にCTCが捕捉できるよう、マイクロメートルオーダーで特殊なチップを配置したマイクロ流路デバイスの設計・開発し、現在も更なる研究を進めておられます。
図4. CTCを捕捉した例 (加瀬先生ご提供)
このように様々な分野に流体力学の視点と知恵を応用されている加瀬先生は、フットワークも軽く、学内でも様々な先生方とコラボレーションを行い、自身の研究も発展させておられます。「私自身が流体力学と生物学の境界から研究をスタートしたので、分野の垣根を超えるということには全く抵抗はないです。様々な企業さんとの出会いを通して、思いもよらない分野でさらに面白い研究も生まれる可能性があると思っています。流体が関わらない現象はほぼないので、色々とお話しいただければと思います。」
今後も加瀬先生の取り組みによって新たな技術の進歩を見ることができそうです。
(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)
【研究室が所有する知見や技術】
レーザーシートやハイスピードカメラ、位相差顕微鏡等の各種光学系に加え、流速計、流量計、圧力計、ロードセル、トルク変換機等の各種計測器を保有し、微風速~強風までの各種風洞や回流水槽、大小様々な配管や特注流路の流れの計測が可能。またArduinoやプログラムリレー等による制御系にも対応できる。実験のみならず、自作コードや市販ソフトウェアを活用した数値シミュレーションによる流れ場の詳細な解析も行っている。
【リンク先】
富山大学研究者プロファイルpure https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/atsushi-kase
富山大学流体工学研究室ホームページ http://enghp.eng.u-toyama.ac.jp/labs/me05/
researchmap https://researchmap.jp/a-kase
株式会社Cytona Facebookページ https://www.facebook.com/Cytona/?locale=ms_MY
株式会社Cytona YouTube https://www.youtube.com/@Cytona-ro9md
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