INTERVIEW

研究者インタビュー

富山大学 研究者インタビュー#60

2026年10月13日

 

組織制御への挑戦

土屋 大樹 先生

富山大学 都市デザイン学系 助教

土屋先生は、鋳造合金の内部組織をミクロレベルで観察し、材料特性が生まれる仕組みの解明と、
組織制御に基づく材料設計の実現を目指して研究を進めています。

 

 はじめに

 自動車や建築材料、家電製品など、私たちの身の回りには数多くの金属材料が使われています。しかし、材料がなぜ強いのか、なぜ加工しやすいのか、その理由が十分に理解されているとは限りません。

 富山大学学術研究部都市デザイン学系および先進アルミニウム国際研究センター(ARC)に所属する土屋大樹先生は、金属の内部組織に注目し、材料特性と組織の関係を明らかにする研究に取り組んでいます。刃物で有名な岐阜県関市出身の土屋先生は、幼いころから金属材料を身近に感じていたそうです。大学進学後は材料を学び、鋳造マグネシウム合金の強度設計に取り組みました。その後、企業では鋳鉄の切削加工性を、そして現在はアルミ鋳造材を中心に研究を進めてきました。様々な金属を扱ってきた土屋先生ですが、共通しているのは鋳造材の金属内部のミクロ組織にフォーカスを当てることです。

 

図1 鋳造とは、金型に液体金属を流し込んで成形する技術で、複雑な形状の部品に広く使用される(土屋先生ご提供)

強度変化を組織から解き明かす

 土屋先生が研究に没頭したきっかけは、修士課程で取り組んだ鋳造マグネシウム合金の研究でした。マグネシウム(Mg)は実用金属の中でも特に軽く、自動車の軽量化を支える材料として期待されています。中でも鋳造材は、ハンドルの芯金など特殊な形状の部品に使われます。土屋先生はマグネシウム合金の耐食性向上に役立つ、マンガン(Mn)添加の影響に着目しました。

 「扱っていたのはマグネシウムにアルミニウムとマンガンが入った合金です。当初は実験結果の再現を試みていましたが、思うように再現できませんでした。調べていくと、マンガンが強化に使われるはずのアルミニウムと反応し、組織形成に影響していることが分かりました。再現性が出なかったのは、マンガン濃度が異なったことが原因だったのです」

 先生は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、材料内部の組織を詳しく観察し、Mn添加による強度変化の仕組みを解明しました。この研究ではMn添加量を必要最小限に抑えることを提案しています。この研究を通して土屋先生が実感したのは、同じ成分の材料であっても、性能の違いを理解するためには内部組織を観察することが欠かせないということでした。

アルミの中で何が起きているのか

 現在の主な研究対象はアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)を主成分とするAl-Si-Mg系アルミ鋳造材です。アルミは自動車のホイールや足回り部品など幅広い用途で利用されていますが、熱処理によって強度が向上する仕組みは十分にわかっていません。その理由の一つが、鋳造材特有の組織のばらつきです。鋳造材では部位ごとに冷却速度が異なるため、同じ材料の中にも異なる組織が形成されます。そのため、強度発現の仕組みを単純に説明することができません。先生は組織観察により、同じ試料の中でも場所によって異なる析出組織が形成されていることを明らかにしてきました。一般的にMg2Siという化合物が強度向上に寄与すると考えられていますが、それだけでは説明できない組織の存在も確認されており、鋳造アルミ合金の強度発現機構は想像以上に複雑であることがわかってきています。

 現在は、なぜその組織が形成されるのか、そしてそれぞれの組織が強度や延性にどのように影響するのかを明らかにし、組織制御につなげる研究を進めています。

 

 

図2 アルミ鋳造材の内部組織観察例(土屋先生提供)。場所によって析出物の種類や分布が異なり、
鋳造材特有の複雑な組織が見て取れる。(出典:DOI: 10.2464/jilm.76.233)

 

リサイクルアルミへの挑戦

 近年は、先進アルミニウム国際研究センター(ARC)の研究活動の一環として、リサイクルアルミに関する研究にも取り組んでいます。アルミニウムはリサイクル性に優れた材料ですが、再利用を繰り返す過程でさまざまな不純物元素が混入します。不純物は材料特性に影響を及ぼすため、その対策が課題となっています。

「富山大学ARCには不純物そのものを取り除く研究をされている先生方もいますが、私たちは不純物の影響をどう抑えるかという視点で研究しています。どこまでなら不純物を含んでも性能を維持できるのか、また、成分設計によってその影響を抑えられないかを調べています。」

 不純物の影響を理解し、その抑制方法が確立できれば、リサイクル材の性能は安定し、アルミニウムの循環利用がさらに進みます。この研究はその土台となる重要な研究の一つです。

おわりに

 様々な金属材料の特性をミクロ観察によって明らかにしようとしている土屋先生ですが、研究のゴールは組織を観察して現象を説明することだけではありません。

 「組織を制御する方法の確立を目指しています。このぐらいのスペックの材料が欲しかったら、こういう熱処理をしたらいいですよとか、こういう添加元素にしたらいいですよとか、材料設計のニーズに応えられるようなデータ(材料設計基準)を作っていきたいです。」

 その背景には企業での経験があります。先生は、鋳鉄メーカーで溶解工程や鋳造工程に携わりながら、品質改善やコスト削減といった製造現場の課題に向き合ってきました。溶かした鉄(溶湯)の状態や冷却条件が組織にどう影響するのかを調べるため、2年近くにわたって毎日複数回の冷却曲線を測定し続けたこともあるそうです。この経験を通じて、組織が材料特性に与える影響を現場で実感しました。実際の製造現場培った知見とミクロ組織解析技術を生かし、社会実装を見据えた組織制御の実現にこれからも挑み続けます。

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(文責:学術研究・産学連携本部URA 浮田)

 

リンク先

富山大学研究者プロファイルpure  https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/taiki-tsuchiya/

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