INTERVIEW

研究者インタビュー

富山大学 研究者インタビュー#59


2026年9月28日

 

 

目の異常を動的データで捉える

三原 美晴 先生
富山大学 医学系 眼科学講座 講師

三原先生は、眼球運動を動的データで記録・解析し、病気との関係を明らかにすることで、
眼科疾患の早期発見や予防につながる研究に取り組んでいます。

はじめに

 スマートフォンやタブレットが生活の一部となった今、子どもたちが画面を見る時間は大きく増加しました。それに伴い、スマートフォンの長時間使用との関連が指摘される『スマホ内斜視』も増加しています。また、乳幼児期に発症する斜視は、その後の視覚機能の発達にも影響を及ぼすことがあります。しかし、子ども自身が異常を訴えることは難しく、周囲が気づいたときには症状が進行しているケースも少なくありません。富山大学で小児眼科・斜視・弱視を専門とする三原美晴先生はこうした課題に対し、『目の動き(眼球運動)』に着目した研究を進めています。

「病院で患者さんを診て、わからないことがあれば先輩医師に聞いたり、教科書や論文を読んで勉強していきます。初めのころはそれで解決できていましたが、そのうちまだ答えが見つかっていない疑問ばかりが残ってきます。『この病気はまだ原因が分かっていないのか』とか『この治療法が本当にベストなのだろうか』——調べれば調べるほど、まだ分かっていないことがたくさんあることがわかり、自然と研究の道に進んでいました。」

目は動いているのに、なぜ静止画で評価するのかという疑問

 三原先生には、ずっと疑問を感じていたことがありました。それは、今の斜視診療では、眼球のずれの角度や眼球の可動域の値、あるいは写真による静止画といった、ある一時点を切り取った部分でしか評価されないことです。           

「人の目は常に動いていて、じっと見ているつもりでも実際にはわずかに動き続けています。斜視の患者さんの困りごとに対して、ある一時点だけを切り取って評価するだけで十分なのだろうかと感じていました。そこで、実際の目の動きを記録して、動的な指標を作れないだろうかと考えました。」

 そんな中で出会ったのが、視線の動きを記録する装置『アイトラッカー』でした。本来は心理学やマーケティング、運転シミュレーターなどで活用されている技術ですが、先生はこれを眼科の診療や研究に応用できないかと考えています。目の動く速度や軌道を解析することで、従来の評価では見えてこなかった異常を捉えられる可能性があります。

 最初にアイトラッカーを使って調べたのが、目を動かす神経や筋肉の異常をおこす病気による眼球運動の変化です。例えば、脳からの筋肉への指令を伝達する神経が麻痺すると、眼球運動の速度が低下するなど、特徴的な変化が見られることがわかりました。三原先生は眼球運動という今までになかった視点から病気の理解を深めようとしています。

図1 アイトラッカー試広報番組「知の験例(富山大学フロンティア」より引用)

赤ちゃんの異常を早期に検知する

 アイトラッカーの用途として検討を進めている一つが、赤ちゃんの眼球運動の発達に関する研究です。赤ちゃんは成長とともに、頭と目を協調させながら視線を移動できるようになりますが、どのように発達し、どこで異常が生じるのかは、まだ十分に解明されていません。特に先生が注目しているのが『乳児内斜視』です。乳児期の早い段階で発症する代表的な斜視ですが、保護者が異常に気づいた時にはすでに症状が進んでいることも少なくありません。発症前の段階で眼球運動の特徴を捉えることができれば、より早い時期から発見や予防につなげられる可能性があります。

 しかし、赤ちゃんは頭を固定したり機器を装着することが難しく、現在のアイトラッカーでは計測自体が困難です。そこで取り組んでいるのが、新しい眼球運動の計測手法の開発です。赤ちゃんが自由に動いている状態でも眼球運動を評価できる技術が実現すれば、乳児内斜視だけでなく、発達障害のある子どもたちの支援にも応用できる可能性があります。


スマホ時代の新たな課題に挑む

 もう一つの研究テーマが、近年注目される『スマホ内斜視』です。スマートフォンなどを長時間使用した後、遠くを見ても目が寄ったままになってしまう症状で、中学生から大人でも発症することがあります。遠くが2つに見えるだけでなく、日常生活に支障をきたす場合もあります。

 一般的には、近くを見続けることが原因と考えられていますが、詳しく眼球運動を調べている研究はありません。三原先生はアイトラッカーを用いて、スマートフォンを見ている時の眼球運動を計測し、発症との関係を調べています。
「スマホを使うなというのは難しいので、スマホを見ているときの距離や目線の使い方で発症を予防できるようになればと思っています。」

 

おわりに

 三原先生は、ご自身も小学生の頃、目の病気を患い、手術を経験されました。通院する中で、眼球模型に惹きつけられ、眼科医を目指すようになったそうです。

「手術前日の夜、お休みなのに担当の先生が病室へ来てくれたことを今でも覚えています。ほんの少し顔を見せてくれただけですが、それだけで安心したんです。なので、今は私も手術の前日にはできる限り患者さんのお顔を見に行くようにしています。自分が患者だった経験は、患者さんの気持ちを考える上で今も大きく影響していると思います。」 

 今後も眼科医としての診療と、眼球運動に着目した研究を進め、できるだけ多くの人が眼科疾患発症前に予防することが可能になる社会に貢献できればとお話しいただきました。 


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(文責:学術研究・産学連携本部URA 浮田)

リンク先

富山大学学術研究部医学系 眼科学講座
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