INTERVIEW

研究者インタビュー

富山大学 研究者インタビュー#56

2026年7月13日

 


医療現場を起点とした小児医療研究

寺下 新太郎先生

富山大学 医学系 特命助教


寺下先生は、医療現場での臨床と基礎研究を行き来しながら、

特に小児内分泌分野での課題解決と社会への還元を目指しています。

はじめに

 子どもは成長の過程で、身長は3倍、体重は20倍程度にまで大きくなります。それと同時に体の内側にある仕組みもまた大きく変化します。こうした変化を支えているのが、ホルモンをはじめとした『内分泌』の働きです。

 富山大学附属病院の小児科医である寺下新太郎先生は、内分泌代謝学の分野で医学基礎研究に取り組んでいます。寺下先生が医師を志したのは、高校生の時に、家族の主治医が、分かりやすく病状を説明する姿に感銘を受けたことがきっかけでした。

「医者になってからは、様々な診療科を経験する中で、短い期間で大きく変化する子どもの成長学に興味を持ち、その仕組みを解き明かしたいと思うようになりました。また、小児科での研修で子どもたちと接する中で、この子たちのために頑張りたいと思うようになり、小児科医になることを決めました。」

 医師として患者さんと直接向き合う『臨床』に携わる中で、留学経験が一つの転機となります。
「2018年から2年間、臨床医留学を経験しました。そこでは全国から様々な医師が集まっていましたが、基礎研究に取り組んできた先生は臨床への理解も深く、その姿に圧倒されました。それまで研究を自分事として考えてこなかったのですが、これをきっかけに、自分も本格的に基礎研究に取り組みたいと思うようになりました。」

 現在は小児科の臨床、基礎研究、さらに大規模データを扱うエコチル調査にも取り組み、精力的に医学に向き合っています。

臨床での課題を基礎研究で取り組む

 現在取り組んでいる研究の一つが、バセドウ病という甲状腺の病気に関するものです。バセドウ病は、甲状腺の働きが過剰になる自己免疫疾患で、一般的には特定の自己抗体(TRAb)が原因とされています。しかし実際の医療現場では、その説明だけでは当てはまらない患者も少なくありません。

「一般的には、TRAbが原因とされていて、多くの患者さんはそれで説明がつきます。しかし約2割の患者さんは、TRAbの動きと症状が一致しないのです。この病気にはまだ明らかになっていない未知の病態が隠れているはずだと考えました。」 

 これまでに、国立成育医療研究センターと協力して大規模な患者データを分析した結果、その仮説を裏付けるデータが得られてきました。現在はそのメカニズムを基礎研究で明らかにしようとしています。具体的には、患者の血液を用いて、含まれる自己抗体を網羅的に調べる研究に取り組んでいます。

「従来は、あらかじめ特定の抗体にあたりをつけた研究が行われてきましたが、今回は、従来の仮説の外側にある自己抗体が原因になっている可能性を考えています。まずは可能性を絞らずに、広く探っていくアプローチでメカニズムを探りたいと考えています。」

 このような、臨床で体感した課題を基礎研究に持ち帰り、得た知見を患者さんのためになる形で還元する『フィジシャン・サイエンティスト』の取り組みは寺下先生の大きな軸となっています。

大規模データから見える子どもの成長

 寺下先生は、エコチル調査と呼ばれる大規模な母子データを扱う研究にも取り組んでいます。この調査は環境省が実施している国家プロジェクトで、環境中の化学物質が子どもの健康にどのように影響するのかを明らかにするために行われてきました。全国15カ所の拠点で、10万組を超える親子が参加しており、富山ユニットセンターは北陸唯一の拠点として、2011~2014年に出生した母子の追跡調査を行っています。

「これまでのデータから、幼少期の発達やアレルギーなどとの関係について多くのことが分かってきました。追跡してきた子どもたちは、これからちょうど思春期を迎えます。思春期はホルモンの影響が大きく出る時期なので、内分泌の視点からも重要なタイミングです。今後のエコチル調査で得られるデータは、小児内分泌学をさらに深く知るための貴重なデータになると考えています。」

 臨床、研究と並行して、エコチル調査のようなデータサイエンスにも取り組むことで、子どもの成長を多角的に理解しようとしています。なお、エコチル調査で得られた知見は環境省ホームページで公開されています。

おわりに~小児医療の課題と、社会への広がり~

 臨床、研究、教育と三本柱で医学に向き合っている寺下先生ですが、今後は社会貢献を加え、四本柱で活動を進めていきたいとお話いただきました。

「小児内分泌疾患は比較的患者数が少なく、社会的な認知が十分とは言えません。しかし、最近増えている小児糖尿病では1日4回以上のインスリン注射が必要であり、給食の時間などでも医療的ケアが必要であるため、学校や社会の理解が不可欠です。そのためには私たちが声を上げて社会にアプローチしていくことが必要ですが、研究などで得られたデータがなければ認めてもらえません。例えば、食物アレルギーも今では広く周知され、バックアップ体制が整ってきたと思います。小児内分泌疾患に関しても、研究と情報発信を通じて理解が広がり、困っている患者さんが少しでも安心して楽しく暮らせるような社会につながればと考えています。」

 インタビューを通して、寺下先生が何度も繰り返しお話しされていたのは、自分の研究によって困っている人を助けたいということです。自分の目で課題を見つけ、それを解決するために、基礎研究に取り組む。そのフィジシャン・サイエンティストとしての取り組みは、『困っている人を助けたい』という思いを着実に形にしていくものだと感じました。

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(文責:学術研究・産学連携本部URA 浮田)

リンク先

富山大学研究者プロファイルpure  https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/shintaro-terashita/

Researchmap  https://researchmap.jp/stera8

富山大学医学部小児科学教室 https://toyama-ped.jp/

エコチル調査富山ユニットセンター http://www.med.u-toyama.ac.jp/eco-tuc/