富山大学 研究者インタビュー#54
2026年6月8日

鈴木 広人 先生
富山大学 社会科学系 教授
鈴木先生は、統計学や数理モデルを用いて消費者行動を分析し、マーケティングやブランディングの観点から
企業や社会の意思決定のあり方を明らかにすることを目的に研究に取り組んでいます。
マーケティングは経営学の中でも広く知られた概念ですが、特に富山のような地方企業の弱みであると指摘されることもあります。
「企業がマーケティングをしようとすると、どうしても供給者目線になってしまいます。企業の強みを押し付けても、消費者が嬉しくなければ何の価値もありません。消費者がどのように感じ、どこに魅力を見出すのかを明らかにし、それを企業や社会のアクションに繋げたいと考えて、研究に取り組んでいます。」
今回お話を伺ったのは2026年4月に富山大学に着任されたばかりの鈴木広人教授です。ご専門であるマーケティングやブランディングの研究内容と、富山を拠点とした今後の活動の展望をお話しいただきました。
鈴木先生は、理工学部で経営工学を学びました。経営工学は、社会で起きている問題点を統計的な手法を使って分析し、改善を行おうとする学問です。当初はスーパーなどに設置されているペットボトルの自動回収機(RVM)を使ったリサイクルシステムを対象に、導入コストを踏まえた持続的に運用できる仕組みについて研究を行っていました。
「リサイクルは、消費者がRVMにペットボトルを持ってきてくれないと始まりません。どのようなインセンティブを付けてあげればRVMに持ってきてくれるのかを考える中で、消費者の行動って面白いなと思うようになりました。リサイクルに限らず、社会で起きている問題には必ず消費者の行動が出てきます。そのような流れで、徐々にマーケティング研究にシフトしてきました。」
消費者行動研究で鈴木先生が注目してきたテーマの一つが、時間の中で変化していく意思決定プロセスです。消費者の行動は、その瞬間の判断だけでは十分に説明できません。例えば、トイレットペーパーなどの日用品の購買では、価格が安いときに買いだめすることがあります。これは単に安いから買うのではなく、将来の使用を見越した選択です。こうした時間軸を考慮した考え方は『動学的意思決定』と呼ばれます。さらに、鈴木先生の研究では、この動学的意思決定モデルに、商品の評価が経験によって変化していく『学習モデル』を組み込みました。
「初めて購入する商品は、その品質や使い勝手が分かりません。実際に使い、学習することでいい商品かどうかが分かってきて、次回以降の購買行動が変わっていきます。実際に、ID付きPOSデータを使用して紙おむつの購買を分析すると、一人目の子どものときよりも二人目、三人目の子どものときに、1回あたりの購入量が増えていく傾向が確認されました。」
これは時間軸と学習の要素を組み合わせたモデルを使用し、データ分析を行うことで、消費者行動が明らかになった事例です。鈴木先生は、こうした数理モデルを用いた研究によって『消費者はなぜそのような行動をするのか』をより具体的に理解しようとしています。
別の研究では、『消費者が何に価値を感じているか』を定量的に分析しています。消費者は、商品を選ぶ際、価格・品質・ブランド・デザインなど、さまざまな要素を基に判断していますが、それぞれの要素がどの程度影響しているのかを把握するのは容易ではありません。そのために用いられるのが、『コンジョイント分析』と呼ばれる手法です。複数の選択肢からなるアンケートデータを基に、消費者がどの要素をどの程度重視しているかを分析します。
ある食品の産地表示に関する研究では、産地情報を追跡できるQRコードの有無が消費者の購買意欲にどの程度影響するのかを検証しました。QRコードがあることで産地偽装への安心感が得られる一方、その分コストもかかります。分析の結果、QRコードで得られる情報に対して想定以上の価値が認識されていることが分かりました。しかし全ての食品に同じようなQRコードを追加すればいいというものではありません。
「マーケティングは、これをやれば必ずうまくいくというものではないんです。トライアンドエラーを繰り返して、失敗したらできるだけ早く次の改善につなげていくことが重要で、そのための判断材料として様々な分析を行う必要があると思っています。」
鈴木先生の視点から富山という地域を見ると、どのような課題が見えてくるのでしょうか。まず挙げられたのが、『素通り県』とも言われる現状です。立山をはじめとした観光資源はあり、訪問者は一定数いるものの、宿泊や消費に十分結びついていません。現在、鈴木先生のゼミでは、『富山をどう盛り上げるか』というテーマで調査を進めています。
「富山を観光しても、宿泊先は金沢を選ぶ人が多いようです。その原因として、一つ考えているのが、富山の飲食店の閉店時間が早いことです。夜の時間を楽しめるようにして、『富山に飲みに行こうよ』という観光客が増えるといいですよね。関連して、最近は『ナイトタイムツーリズム』が注目されていますが、ゼミのテーマでも扱いたいと考えています。調査の中では、若年層の旅行者が少ないこともわかってきました。こちらもさらに調べたいと思っています。」
鈴木先生は、酒蔵が立ち並ぶ街を対象に、旅行者の満足度に関する分析研究に取り組んできましたが、現時点では歴史的な街並みや伝統といった要素が必ずしも満足度に直結するわけではないという結果が示されているそうです。
「もちろん観光客に人気があり、満足度が高い歴史的な街並みや酒蔵も多々あります。競合がたくさんある中で、何らかの価値を提供していかないと、消費者には選ばれません。その価値を感じる消費者がどこにいて、どういう人たちで、というのをまず分析していく必要があると思いますし、共同研究をするならそういった視点での取り組みがスタートになると思います。」
こうした視点はマーケティングの一分野であるブランディングの課題とも深く関わっています。
鈴木先生は、今回紹介した事例の他にも、病院経営や企業のグローバル化といった幅広いテーマで研究に取り組んできました。一見すると分野は多岐にわたりますが、その目的は一貫しています。消費者行動を理解するという理論にとどまらず、その知見を基に、企業や社会がどのようなアクションを取るべきかを明らかにすることです。
「先日、富山の海水浴場に行ってみましたが、海と山が同時に見える景色は、きれいですよね。せっかく富山に来たので、富山でしかできないことをやりたいです。」
東京・浅草出身で三代続く江戸っ子の鈴木先生。富山に来られたばかりの新鮮な視点と、マーケティング専門家としての視点を活かし、これからどのような活躍をされるのか、今後の展開が楽しみです。
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(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)
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