富山大学 研究者インタビュー#52
2026年5月11日

酒德 昭宏 先生
富山大学 理学系 講師
酒德先生は、富山の自然環境から得られる優れた微生物の活用と、
悪い微生物が原因となる産業課題の解決を目指して研究を進めています。
微生物と聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか?発酵食品をつくり、環境を浄化し、あるいは病気の原因ともなる・・・目に見えない存在でありながら、私たちの暮らしのあらゆる場面で役割を担っているのが微生物です。その微生物研究を通して環境や産業の課題解決へつなげようと研究に取り組んでいるのが、富山大学理学部理学科自然環境科学プログラムの酒德昭宏先生です。
高校生の頃から地球温暖化や酸性雨、砂漠化といった環境問題に興味を持っていた酒德先生は、当時学科名に『環境』を掲げていた唯一の国立大学である富山大学に入学しました。転機となったのは、学部1年生のときに受けた中村省吾先生の講義です。
「微生物を使って汚染を検出するバイオアッセイや、微生物を使った浄化技術であるバイオレメディエーションなどの話を初めて聞きました。社会で微生物たちが活躍していることを知り、強く興味を持ったんです。」
これをきっかけに研究室を決め、現在まで一貫して微生物の可能性を探り続けています。
酒德先生の研究の大きな特徴は、富山の自然環境から微生物を分離していることです。
「富山は、深さ1000mの富山湾と標高3000m級の山々との距離が近く、陸と海の多様な環境が凝縮されています。その中から、これまで知られていなかった微生物が次々と見つかります。」
培養技術が進歩した現在においても、人類が分離培養できている微生物は自然界全体の1%に過ぎないといわれています。残りの99%が持つ可能性を象徴するのが、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生のイベルメクチンの開発が挙げられます。
「イベルメクチンはゴルフ場の土壌から分離された微生物をきっかけに開発され、多くの命を救いました。そういった例を見ると、富山の自然にもまだまだすごい微生物が眠っているはずだと思うんです。遺伝子組換え技術なども選択肢としてありますが、私たちの研究では自然の中で長い時間をかけて選び抜かれてきた微生物を大事にしたいと思います。実は、その方が機能も良いことが多いですし、食品や医薬品の場合は安心感もあると思います。」
酒德先生が長く取り組んでいるのが海藻分解菌を活用した研究です。
「富山湾の堆積物から取れた微生物が、様々な種類の海藻を分解できる、という特徴を持っていたのです。ワカメ、昆布、アオサ、天草など、構成成分が違う海藻を全て分解してしまうというのは、世界的にも珍しいものです。」
そもそも海藻は分解されにくい構造をしているため、海岸や食品加工場などで発生する海藻廃棄物は埋立・焼却処分をされてきました。しかし、今回発見した海藻分解菌を用いることで、そのような廃棄物処理が必要なくなるだけでなく、海藻廃棄物を機能性オリゴ糖や、養殖ウニの餌となる単細胞体などの有用物質に変換することができるのです(図1)。
海藻だけでなく、植物廃棄物(稲わらなど)を分解する微生物も次々と単離しており、応用の可能性が広がっています。

図1 海藻分解菌Myt-1の利用(酒德先生ご提供)
酒德先生の研究は、有用な微生物の活用にとどまりません。食品や水産、農業などの分野で問題となる微生物を調べ、その制御や対策にも取り組んでいます。代表的な例が、真珠養殖において長年問題となってきたアコヤガイの殻黒変病です(図2)。殻黒変病は発症すると殻が黒く変色し、年によっては個体の半数が死亡することもあり、品質低下によって養殖業者を悩ませてきました。その原因が微生物による感染症であることを突き止めたのが酒德先生らのグループです。
「長年、原因は寄生虫だと考えられており、養殖の現場では対応策も作り、そのやり方が守られてきました。それにもかかわらず、病気は減っていませんでした。日本の真珠は世界的にも高く評価されており、輸出額もどんどん伸びています。この病気を減らすことができれば、一級品真珠の生産量も増え、その需要に応えることができます。」
酒德先生は、微生物の性状やゲノムを徹底的に調べ、知見を積み上げてきました。現在では原因微生物を特異的に検出する方法も開発しており、現場で使える検出キットとしての実用化を目指しています。

図2 正常なアコヤガイと殻黒変病に感染したアコヤガイの比較
形成される真珠の品質も大きく異なる。(酒德先生ご提供)
酒德先生の研究対象は広く、廃棄物や環境汚染物質を分解する微生物、体内に有用な油や色素を蓄積する微生物など多様です。その種類も細菌(バクテリア)から藻類まで多岐にわたります。温和な条件で反応が進む微生物活用技術は、エネルギー負荷を低減できる点でも注目されており、カーボンニュートラルが求められる現代において、今後ますます広い分野での活用が期待されています。
酒德先生は、今後の目標として、多くの企業との共同研究を通じ、研究成果を社会実装していくことを掲げています。富山の多様な自然環境の中で長い年月をかけて選び抜かれてきた微生物と、それを活用する知見を有する酒德先生の研究は、社会・企業が直面する課題に対して、新たな切り口となり得るのではないでしょうか。
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(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)
富山大学研究者プロファイルpure https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/akihiro-sakatoku/
Researchmap https://researchmap.jp/sakatoku
富山大学理学部研究トピックス「低品質真珠形成を起こす殻黒変病は細菌感染症だった!」 http://www3.u-toyama.ac.jp/sci/topics/env/202601.html