INTERVIEW

研究者インタビュー

富山大学 研究者インタビュー#46

2026年1月13日

 

見えない価値を見えるかたちに

山本 真人 先生
富山大学 社会科学系 助教

 

山本先生は、GIS(地理情報システム)を活用して、自然がもたらす恩恵を地図上に可視化し、
地域資源の価値評価や政策判断への応用を目指しています。

 

 紹介

 私たちの暮らしは、生物多様性や自然の働きに支えられています。しかし、その恩恵は日常生活では見えにくく、意識されることも少ないのが現状です。こうした恩恵を体系的に捉える考え方として『生態系サービス』という概念がよく知られるようになりました。

「生物多様性や自然から、私たちは様々な恩恵(サービス)を受けています。食料や水などを供給してくれるだけでなく、緑があることで空気が浄化されたり、自然に触れることで気分が安らいだりといった恩恵もあります。このような恩恵を生態系サービスでは大きく4種類に分類しています(図1)。分類ごとに適した評価手法を用いれば、自然の価値を可視化することができ、政策や社会の意思決定にも反映されやすくなります。」

 環境問題に貢献したいと考え研究の道を選んだ山本先生は、これまで生態系サービスの概念を地理情報システム(GIS)と結び付けることで、自然の価値を地図上に『見える化』する取り組みを進めてきました。生態系サービスを地図化することで、生態系からの恩恵がよく見えるようになります。

 

1 生態系サービス(出典:東京都環境局 「東京都生物多様性地域戦略(普及版)」P.2 https://www.tokyokankyo.jp/learn/biodiversity/

 

GIS解析とは

 山本先生の研究を支えるGISは、地図上にさまざまな情報を重ねて解析する技術です(図2)。農地や森林の分布、人口の推移、土地利用の変化などを視覚的に捉えることができ、地域の環境や社会の動きを立体的に理解する手助けとなります。富山大学では、経済学部のデータサイエンス教育に力を入れる中、山本先生を中心に授業の中でもGISを扱うようになりました。

「例えば、農業用地や森林がどういうふうに広がっているかといった地理情報は無料で公開されています。こうした地理情報や統計データを組み合わせて解析し、地図化することでわかってくることが多くあります。」

 

2 地理情報の重ね合わせ例(出典:国土交通省ウェブサイト (https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/chirikukannjoho/tochi_fudousan_kensetsugyo_tk1_000041.html

 

生態系サービスの地図化

 こうした技術を用いて、これまでは三重県を対象に解析を行ってきました。三重県は、南北の人口の差が大きく、北部では四日市市などの工業地域や都市部が広がっているのに対して、南部は伊勢神宮や熊野古道など自然豊かで文化的価値が高い一方で過疎化が進む地域とされています。

「南部の方が自然豊かなので、多くの生態系サービスを生み出していると予想していたのですが、実際には北部の方が多くのサービスを提供しているという結果が得られました。これは、生態系サービスの『フロー』が人の存在によって生じるためで、人がいない地域では『ストック』があっても『フロー』が小さくなってしまう可能性を考えることとなりました。今後の課題の一つとして、ストックとしての自然資本の評価も必要だと考えています。」

 生態系サービスを評価するためのデータは十分とは言えず、全容を明らかにすることは現時点では難しいそうです。今後生物多様性や自然への重要性が増す中で、より正しい評価方法が確立されると考えられます。

「現在進めている研究として、富山県にも存在する過疎化地域に着目したものがあります。『人間が自然を壊してる』『人間がいなければ自然は守られる』とよく言われますが、実は自然を適度に使うことで、生態系や生物多様性が守られてきた部分もあるかもしれません人口の偏りが進む現代において、どれくらいの使い方がよいのかという視点で、自然との関わり方を見直すことも必要だと考えています。」

 

図3 三重県における生態系サービスの空間分布例(©日本環境学会,山本ら,三重県における生態系サービスの地図化によるホットスポットの推定,『人間と環境』47巻3号4-22頁,2021:https://doi.org/10.5793/kankyo.47.3_3)
以下[]内は使用データを示す。m) 気候の調整[総一次生産量;植物が光合成で取り込むエネルギー(有機物)の総量]、n) 身体的・経験的交流[観光資源密度]、o) 知的な交流[グリーンツーリズム推進施設密度数]

 

ウェルビーイング(Well-being)の視点から評価する仕組み作り

 生態系サービスの中でも評価が難しい分類として『文化的サービス』があります。これは、心が安らいだり、学びによって充足感が得られたりといった、人間の幸福(ウェルビーイング)に影響を与えるものです。これまでは熊野古道を対象に、エコツーリズムの価値を明らかにする研究を行ってきました。

 今後は、学生のメンタルヘルスに起因する不登校などが増加する中、教育現場を対象としたテーマへの取組みを検討しています。一見、これまでの研究と異なるように見えますか、『人間の幸福』を対象とするという点や、『見えにくいものを見えるかたちにする』という点で、共通する課題があるそうです。

「教育現場では、日々の業務に追われる中で、メンタルヘルスに問題を抱える子どもへの対応が十分とは言えない状況もあります。目に見える成績などが評価されやすい一方で、学生の心のケアに関わる取組みは、その価値が見えにくく、十分評価されていない可能性もあると考えています。また、ジェンダーの観点でも課題が潜在していると考えています。こうした問題に対する見えにくい価値を可視化し、教育現場での意思決定に活かすことができないかと考えています。」

 

おわりに

 山本先生のゼミには2,3年生の学部生が配属され、その育成にも力を入れています。

「学生が、自分のやっていることが未来につながるものなんだと感じられる研究の場を作りたいと思います。研究が楽しくてワクワクして、成果も出てっていう空間になったらいいなと思っています。また、先ほどお話した研究の面からも、若い人たちがより生き生きと学び、苦しみを減らして喜びを増やせるような教育の在り方を探りたいと思っています。」

 今後は研究室の学生と共に、富山県をフィールドとした研究をより一層進めていくとお話しいただきました。現在、様々な論文が公開準備中とのことで、今後の研究成果にも注目です。

 学術指導・共同研究等のご相談はOneStop窓口からお願いします。

(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)

 

リンク先

富山大学研究者プロファイルpure https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/makoto-yamamoto/

Researchmap https://researchmap.jp/yamamoto-976