//Bownowを入れた

#24 野本 真順先生

masanori_nomoto

富山大学 研究者インタビュー#24

2025年1月14日12:00

 

 

 

記憶の鍵を握る

睡眠研究

 

野本 真順先生

富山大学 医学系 生化学講座・准教授

 

野本先生は、睡眠中の脳における情報処理のメカニズム解明に向けた研究をしています。

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紹介

 私たち人間は、一日の約3分の1、そして人生の約3分の1を睡眠に費やしています。考えが煮詰まったときや悩んでいた問題が、寝た翌朝にスッキリと解決した経験は誰しもあるのではないでしょうか。私達は寝ている間に夢を見ることからも、脳は睡眠中も積極的に活動し、何らかの情報処理をしていることがうかがえます。
 マウスを使った最近の研究から、睡眠は記憶の定着に加えて、「A > B、B > CならA > C」というような三段論法(論理的推論)に似た高度な情報処理も行っている可能性が示され、無意識下で問題解決や思考のパフォーマンスを上げていることがわかってきました。しかし、覚醒時と睡眠時で脳の情報処理がどのように異なるのかは、まだ十分に解明されていません。野本先生は、マウスを用いて神経細胞の個々の応答や集団としてのふるまいを調べることで、睡眠中の脳の情報処理メカニズムを解明する研究に取り組まれています。

 

睡眠が記憶の鍵となる!?

 「私はもともと自然現象の神秘とその仕組みを知ることが好きで(特に、生物と化学)、大学でもっと詳しく学びたいと思い、分子生物学を学びました。学部生の頃に、1987年にノーベル医学・生理学賞を受賞された利根川進先生の著書『精神と物質』を読んだことがきっかけで、生涯にわたってヒトの「こころ」や「人格」に大きな影響を及ぼす『記憶』といった心理的なものを生物学的な視点で探る『記憶研究』という分野に強く惹かれ、記憶の研究に進むことを決めました。そして、学部3年生から現在まで、分子生物学や神経科学の手法を用いて、マウスを使った記憶研究に一貫して取り組んできました。」

 世界中で記憶に関する研究が行われており、覚醒時における脳領域や遺伝子が記憶に果たす重要な役割は多く明らかになってきましたが、睡眠中の脳の機能はまだ多くの謎に包まれています。この謎を解くための第一歩として、先生は実際にマウスにルール学習をさせ、その後の睡眠中の脳活動を記録する実験を行いました。すると、睡眠時には覚醒時とは異なるダイナミックな脳のふるまいが観察され、そこに未解明の領域が広がっていることを実感されたそうです。そこで、安定した情報を脳に入力し、その応答を詳しく見ることで、睡眠中の脳における情報処理のメカニズムを明らかにできると考えられました。

 

最先端の手法を駆使して睡眠中の脳を観る・操る

 これまでの研究では、睡眠中のマウスを音、触覚、嗅覚で刺激するとマウスが覚醒してしまうため、睡眠中の脳に情報を入力して、脳における処理過程を理解することは困難でした。そこで、先生はマウスの脳の感覚経路に直接刺激を入れてその応答性を計測するアイディアを発案し、測定時のマウスの刺激に対する気分や注意などの影響を排除できる実験システムを「光遺伝学」と「カルシウムイメージング」という最先端の神経科学的手法を駆使して構築しました。このシステムでは、特定の光に反応して神経活動を誘発できる遺伝子(光活性型チャネルロドプシン)を神経細胞に発現させることで、覚醒時と睡眠時に同じ入力を脳に行い、その応答を記録できるようになり、睡眠中の脳における情報処理のメカニズムを直接的に調べることが可能になりました。

 

今後の展望

 「覚醒時と睡眠時の脳がどのように情報処理をしているかを解明できれば、睡眠障害の治療法や新しい睡眠療法などの開発に活かせるだけでなく、潜在意識における脳の作動原理を解明することにも繋がります。人工知能(AI)に睡眠時の情報処理機能を組み込むことにより、動物の脳のように少ない学習情報から問題解決を行うような、直感的かつクリエイティブなAIの開発にも繋がることが期待されます。

 また、睡眠中の脳の情報処理メカニズムを科学的に明らかにすることで、普段は自覚できない潜在意識(心の深い部分)へのアプローチ法や理解が飛躍的に深まる可能性があります。潜在意識のメカニズムが明らかになれば、トラウマやストレスなど心の根本的な問題に対し、より本質的なアプローチが可能となり、新しい治療法の開発につながることが期待できます。私たちの研究を一層進めることで、最終的には心豊かに安心して暮らせる社会の実現に寄与できれば、と考えています。」

 野本先生の研究内容は、世界の最先端を競う研究と位置づけられる富山大学アイドリング脳科学研究センターにも属しており、非常に注目度の高いものです。今後は、先生の研究から生み出される基礎的な知見を基に、企業などとの共同研究も行いこうした分野の応用研究を進めていきたいとお話していただきました。

 野本先生との共同研究等のご相談はこちらのOneStop窓口からお願いします。

 

リンク先

富山大学研究者プロファイルpure  https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/masanori-nomoto 

▶researchmap  https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000020636253/

富山大学大学院 医学部 生化学講座 ホームページ http://www.med.u-toyama.ac.jp/bmb/index-j.html