富山大学 研究者インタビュー#21
2024年11月25日12:00
再生肺で
命を救う
土谷 智史 先生
富山大学 附属病院呼吸器外科・特命教授
土谷先生は肺の臓器再生と肺移植医療を発展させるための研究をしています。
2022年、最新医療を取り入れた呼吸器外科が富山大学に新設されました。そのリーダーを担っていらっしゃるのが土谷智史先生です。呼吸器治療において、臓器が機能しなくなり回復が見込めない場合には、臓器移植が選択肢となりますが、臓器(ドナー)不足という大きな課題があります。これを解決するため、先生は特に肺の臓器再生研究に取り組まれています。肺は呼吸と血液の二つの経路を両立させる必要があることや、膨らんだり縮んだりといった動きがあることから、臓器再生が難しい臓器の一つですが、その研究は大きく前進しています。
2011年、先生はYale大学で臓器再生の研究をスタートされました。毛細血管は赤血球1個分のマイクロメートル(ミリメートルの1000分の1)という太さしかなく、現在の技術では工学的に臓器を作成することは不可能です。そこで「脱細胞化」と「再細胞化」いう技術からのアプローチを行っています。
「脱細胞化」とは生体から臓器を取り出し、血管より特殊な界面活性剤を注入し、臓器の三次元構造を保ったまま細胞を除去する方法です。これによって既に完成した複雑な臓器骨格が得られるといった画期的なものです。次に、脱細胞化したものにバイオリアクター内で、自己由来の細胞を注入し、新たな臓器へと作り変える「再細胞化」を行います。この方法が実用化できれば拒絶反応を最小限に抑えた移植治療が実現します。現在はラットの肺でこの技術を実証していますが、今後ラットへの再生臓器移植、そして最終的にはヒトへの再生臓器移植を目指しています。
図1 呼吸器の脱細胞化と再細胞化(一部筆者加筆)
出典:富山大学シーズ集「臓器再生」https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/321
また、臓器再生研究における大きな課題は血管にあります。先生のグループは、比較的簡単に得ることのできる脂肪由来の間葉系幹細胞が、脱細胞化した組織内でPericyte(周皮細胞)に分化し、毛細血管内に留まることを観察しました。その結果、血管内側のバリア性が上昇し、移植後の出血を抑制することに成功しました。この現象をベースに研究を進め、再生臓器内に血液が流れようになれば、実用化に向けた大きな一歩になると考えられます。
https://doi.org/10.1038/s41598-017-09115-2
これまでの研究では、脱細胞化した肺に、ラットの細胞を植えて再生肺を作製してきましたが、現在はヒトのがん細胞を植えた疾患モデルを作製しています。がんには多様な形状、性状、増殖の仕方等の特徴があり、一人一人の患者さんでその性質が異なります。現在はシャーレ上で二次元の広がりなどはできますが、再生肺を用いたモデルであれば三次元でがんの性格を観ることが可能となります。
「最近は免疫療法と呼ばれるがん治療も増えています。再生臓器を使用すればリアルにがんの環境を再現できますので、より成功率の高い治療が行えるようになります。このモデルは1,2年のうちに完成させたいと考えています。完成した暁には、新薬開発時の薬効評価などにもぜひご活用いただければと思います。」
このように先生の研究は大きく前進を続けていますが、まだ多くの課題も残されています。
「血管については、移植後に血栓ができて詰まってしまうという大きな課題があります。これは完全に脱細胞化されていない部分が血液に含まれる凝固因子と反応しておこるものと考えています。この解決のためには、脱細胞化していない部分が血液中成分と接触しないような技術が必要です。生体をコーティングする技術など、有効な技術をお持ちのグループがいらっしゃれば、ぜひご一緒に研究できたらと考えています。」
先生は現在も多くの大学や企業、研究機関などと協力し、加速して研究を進めておられます。御社の技術がこの研究のブレイクスルーに繋がるかもしれません。共同研究などのお問い合わせは富山大学産学連携本部OneStop窓口までお願いします。
(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)
【リンク先】
富山大学研究者プロファイルpure https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/tomoshi-tsuchiya
researchmap https://researchmap.jp/tomoshi
富山大学附属病院 呼吸器外科 https://www.hosp.u-toyama.ac.jp/thrccsrg/index.html
土谷智史 臓器再生研究グループ https://www.organengineering.com/
富山大学シーズ集「臓器再生」 https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/321