#10 加藤 謙吾先生

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富山大学研究者インタビュー#10

2024年4月26日12:00

 

金属精製研究からアースポジティブの実現へ

                  

加藤謙吾先生

富山大学 都市デザイン学系(先進軽金属材料国際研究機構)先進アルミニウム国際研究センター・特命助教

 

 

紹介

 

 加藤謙吾先生は、物質科学を基礎として、マテリアル革新により産業と技術革新の基盤づくりに貢献するマテリアル科学工学を専門としています。そのなかでも熱力学、反応速度論、輸送現象論というメタラジ―の観点から金属精製プロセスにおけるカーボンニュートラルの実現、とりわけ鉄・ステンレス・アルミニウムについての先進的な研究を行っています。

 

 

研究の道へ

 

 熱力学、反応速度論、輸送現象論に依拠しつつ新規材料精製プロセスの創出を目指すメタラジ―との出会いが研究職を目指すきっかけとなったそうです。大阪大学大学院工学研究科では、鉄鉱石の被還元性とCO2排出削減の研究に取り組み、実験と理論的解析の双方のアプローチによって新規材料精製プロセスを生み出すことに面白さを見出し、天然資源から材料を精製すること、また反対に使用済み製品を材料へと再生することにますます魅了されていったそうです。新規材料精製プロセス開発のための理論的なモデルを構築し、そのプロセスで想定される現象を自分の目でたしかめることができることに学術的好奇心が刺激され、かつ環境問題にも同時に貢献できるという自負、これが加藤先生を研究へと駆り立てる動力となり、基礎研究と応用開発とのまさに接点である自らの研究に独自の価値を見出しています。

 

 

鉄研究から目指すアースポジティブ

 

 加藤先生が所属する研究グループは、2024年度日本鉄鋼協会澤村論文賞を受賞されました。日本鉄鋼協会 刊行誌 ISIJ internationalに1年間に掲載された論文の中で最も有益であると認められた論文に贈られるその受賞論文で加藤先生の研究グループは、まさに自然環境を見据えた金属研究を推進し、問題解決の具体的な指針を提示しました。

 鉄および鋼鉄製造プロセスにおけるCO2排出量の削減のために、鋼鉄スクラップの利用を増やすことが強く求められていますが、鋼鉄スクラップのリサイクルでは、鋼鉄中の循環元素(銅やスズなど)の含有量が不可避的に増加してしまう現状にあります。加藤先生の研究グループでは、高クロム鋼中での合金元素と循環元素との相互作用係数を測定し鉄にCrが添加された影響を明らかにしたこと、この点が非常に画期的だったのです。これは、鋼鉄スクラップのリサイクルによって生じる銅やスズの影響を理解する上で重要な情報であり、これらの相互作用係数の推定には、正規溶液モデルが使用され、実測値との合理的な一致が示されたのです(下記グラフ参照)。これにより、鋼鉄製造プロセスにおけるCO2排出量の削減のための鋼鉄スクラップの効果的な利用に向けて、より正確な予測と設計が可能になったのです。まさに先端的金属研究がアースポジティブのための具体的な数値を示した研究です。

正則容体モデルにより導出した溶鉄中および溶融Fe-18mass%Cr合金中におけるスズと合金元素間の相互作用係数とその実測値との関係

https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2021-395

 

 

 

 

さらなる金属研究とカーボンニュートラルへの橋渡し

 

 富山大学先進アルミニウム国際研究センターに所属する加藤先生は現在、アルミスクラップ中に含まれる不純物の除去手法の開発に取り組んでいます。

 アルミ地金を天然資源ではなくリサイクル原料由来とすることで、製造過程で発生する二酸化炭素を97%カットする環境フレンドリーな工法をグレードアップさせ、再生アルミ中のSiを1%以下に低減可能にする不純物除去システムとするのです。「カスケードリサイクル」から「アップグレードリサイクル」を可能とするエコシステム創出のため、先進アルミニウム国際研究センターでは、このリサイクルアルミの高強度化、そして複合化技術の開発も含まれる、異種材料接合部材の製品化を目指す研究が推進されています。

 

 加藤先生の研究分野は、材料精製プロセスの発展に大きく貢献してきた分野であり、メタラジ―の知識を駆使して現在のモノづくりを環境配慮型へとシフトする研究開発に非常に力を入れている、と繰り返し強調されていました。地球と社会の課題解決を見据えた加藤先生は、研究室の学生とともに描き出した資源循環社会の実現まで、もうすぐの場所にいます。

 

 

企業との共同研究に向けた加藤先生の研究シーズについては以下をご覧ください。

https://ilm2021.com/activities/

(文責:学術研究・産学連携本部 URA加藤由美子)

 

【関連リンク】

富山大学先進アルミニウム国際研究センター https://arc.ctg.u-toyama.ac.jp/

鉄鋼材料工学講座 小野研究室http://www3.u-toyama.ac.jp/ismat/index.html

澤村論文賞受賞について https://tetsutohagane.net/news/announcements/20230929