INTERVIEW

研究者インタビュー

富山大学 研究者インタビュー#58

2026年9月7日

 

 

新たな価値をデザインする

有田 行男 先生

富山大学 芸術文化学系 准教授

有田先生は、社会課題に向き合いながら新たな価値を創出し、
その価値を未来や文化へつなげるデザイン研究に取り組んでいます。

はじめに

 デザインとは色や形を考えるものだとイメージされますが、デザインを幅広く捉え『社会に対する新しい価値を生み出すための営みである』と考えているのが芸術文化学部の有田行男先生です。有田先生は神戸芸術工科大学大学院を修了後、民間企業で活躍してきました。携帯電話の普及が加速する時代に製品開発の最前線に立ち、日本初のスマートフォン開発や国産メーカー初のAndroid端末の立ち上げにデザイナー、プロジェクトマネージャーとして携わりました。

「現場が好きなので自分たちの手でものづくりをすることが楽しかったです。また、プロジェクトマネージャーを務めた際は事業を統括し、何十億円というお金のハンドリングを担わせていただく貴重な立場も経験させていただきました。 そんな中、恩師のお声がけで大学の非常勤講師を務める機会をいただきました。教育の現場に立つうちに、若い人たちを育て、応援していくことにもやりがいを感じるようになり、教員になることを決心しました。」

 企業でデザイン実務とマネジメントの双方を経験した有田先生は、デザインを経営資源の一つとして捉え、事業や地域で活用していく『デザインマネジメント』を専門に、多様な活動を展開しています。

社会課題に向き合うデザイン

 現在力を入れている取り組みの一つが、富山県内企業や富山県と連携して進めるサーキュラーエコノミーのプロジェクト『BACCAing(バッカイング)』です。このプロジェクトでは、企業から排出される端材や廃材を、新たな価値を持つ資源として捉え直す活動に取り組んでいます。

「現代は中東情勢などもあり、天然資源が手に入りにくい時代です。そうすると既に世の中にある資源をリサイクルしていくという選択肢が大きくなるわけですが、どうしてもリサイクル資源は安くみられるんですね。そういった素材を『意味のある素材』と価値転換し、新たな価値を生み出していくことがBACCAingの活動だと考えています。」

 こうした活動には研究室の学生も積極的に参加しています。

「そもそもデザインというのは社会に向き合ったものなので、社会の課題が変わるとデザインも変わるんです。昔は形・色が中心で職人的に振舞うのがデザイナーだったわけですが、物があふれる時代になると、何を作るか、その価値をどう作るかがデザインの役割になってきています。例えば、サーキュラーエコノミーという社会課題に対して何ができるかということを学生自身が実体験を伴いながら学んでほしいと思っています。」

 

図1 T-messe2025でのBACCAing展示ブース(BACCAing公式ページより引用)
通常使い捨てになる展示什器(展示物の入れ物)を、コロナ禍に大量に普及したアクリルパーティションを組み合わせて作成し、再利用したもの。展示会後は分解して、別の展示会で再利用することができる。近年問題視されている展示会後のゴミ問題に対応している。

 

図2 緩衝材を熱圧着して作られた衣服(有田研究室アーカイブより引用)
気泡緩衝材の重なりが織りなす表情が魅力。縫製は富山県内企業と協力して行った。

 

未来を作るデザイン

 最近では、色や形を使って作業するだけの仕事はAIに代替されるようになりました。こうした時代だからこそ、人にしかできないデザインの仕事とは何かが問われています。

「私が卒業する間際に恩師から、“デザインは哲学である“という言葉をいただきました。当時はあまり意味を理解できなかったのですが、その時にいただいた言葉が今でも大きな礎になっています。デザインには正解がありません。効率化だけで片付けられる問題ではなくて、人間の感情や志向性に向き合わないといけない部分があります。ものづくりにおいて何か仕様を決める際はたくさんの選択肢の中から最適なものを選んでいかなければいけません。だからこそ、評価する観点として自分なりの『哲学』を持つことが重要なのだと、現在も理解を深めているところです。」  

  AIが作ったものをどう評価し、その価値を説明するかは人間にしかできません。そして、未来を描くこともまた人間の仕事です。デザイナーには、自分なりの哲学を持ち、どのような未来に向かって、どのような価値を生み出していくのか考える力が求められるのです。

「芸術文化学部には絵を描きたいと入学する学生が多いのですが、世の中で必要とされるものは変化しています。その変化を学生にどうわかりやすく伝えるのか。そして学生が将来に対して何を準備すべきなのかを自分の中で感じ取っていくことが大事だと思います。」

文化を育むデザイン

 有田先生は、高岡の秋を代表するイベント「市場街」にも副実行委員長として携わっています。市場街は『ふるさとイベント大賞・内閣総理大臣賞』や『グッドデザイン賞』を受賞し、全国でも2番目に古いクラフトイベントとなりました。

「毎年運営するのは大変で苦労も多いのですが、市場街に関わりたくて受験したという学生も少なからずいるのが嬉しいですね。続けることによって、高岡の秋の風物詩、そして文化の一翼になるような存在になれればありがたいと思っています。」

 市場街は今年15周年を迎えます。今年度は全国でも有名な市場街の代表を集めたシンポジウムも開催予定です。

「地域イベントやまちづくり活動は、立ち上げることよりも継続することの方が難しいです。市場街がなぜ続いているのか、最古参として、全国の事例も含めて明文化していくということは一つの役割だと思っています。」
 市場街を通して、デザインによって価値を生み出すだけでなく、その価値がどのように受け継がれ、文化として根付いていくのかという仕組みを明らかにしようとしているのです。

 

図3 市場街は“ものづくりのまち”高岡のまち全体が会場となるイベントです。
2024年には100会場を超える規模へと成長し、年々盛り上がりを見せています。

 

おわりに

 今回のお話を伺い、私はデザインに対する見方が大きく変わりました。これまでデザインとは目の前にある『点』のような存在だと思っていましたが、有田先生の考えるデザインは、社会課題から出発し、目指す未来に向かって、新たな価値を生み出していく『ベクトル』のような存在です。社会をより良い方向へ動かし、ときには文化へとつなげる推進力が、デザインにはあるのです。

 近年はデザイン思考やさまざまなフレームワークが注目されていますが、最も大事なのは、社会課題と向き合い、自ら考え、価値を生み出すトレーニングを積み重ねることだと教えていただきました。企業を取り巻く環境が大きく変化する今、新たな価値創造が求められています。デザインから考える有田先生の取り組みは、そのヒントを与えてくれます。

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(文責:学術研究・産学連携本部URA 浮田)

リンク先

有田研究室ホームページ https://www.aritadesignlabo.com/

富山大学研究者プロファイルpure https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/yukio-arita/

Researchmap https://researchmap.jp/aritadesignlabo

有田研究室作品アーカイブ https://archive.has.u-toyama.ac.jp/tag/%e6%9c%89%e7%94%b0%e8%a1%8c%e7%94%b7-%e7%a0%94%e7%a9%b6%e5%ae%a4/

市場街ホームページ https://ichibamachi.jp/