INTERVIEW

研究者インタビュー

富山大学 研究者インタビュー#31

2025年5月12日12:00

 

ビジョンを実現する

デザインの力

 

 岡本 知久 先生
富山大学 芸術文化学系 講師

 

 

岡本先生は、視覚情報を中心としたデザインによる多様なシーンでの課題解決手法を研究・教育しています

 

 紹介

 意識せずとも目に入り、気づいたら読んでいたという広告に出会ったことはあるでしょうか。広告やパッケージにおいては、ターゲットの視界に入り込むほんの一瞬で、価値を伝えたり、興味を惹きつけることが求められます。このような視覚を中心としたデザイン(グラフィックデザイン)で課題を解決することを専門に、岡本先生は研究・教育を進めています。

デザインとは、『クリエイティブ』という手法を用いて、課題を解決するということです。顧客のビジョンや目標に向けて、どういうアプローチをすることで、それが達成できるのかを提案して、クリエイティブな手法で背中を押してやる。単にカッコいい、綺麗というのは手段でしかありません。」

 大学教員としてキャリアをスタートした岡本先生ですが、『机上の空論だけではなく、現場で必要とされる能力を教えてあげないと意味がない』と考え、大手広告会社で制作ディレクターとして、大手企業の広告やプロモーションのご経験を培われました。2018年からは富山大学で、元々志していた『教育』という使命に向き合っています。

 

教育を通じた共同研究

 これまでの岡本先生の成果物は、広告、商品パッケージ、ホームページ作りはもちろんのこと、車両や公園、展示会ブース、または経営戦略から商品開発といった、グラフィックの域を超えた幅広いものです。有償でご依頼いただくものですので、進捗管理や最終的なクオリティは必ず先生が保証しますが、重視するのがそのプロセスです。

「共同研究では必ず『教育』という視点をご依頼いただく方にも理解してもらい、ゼミの学生が主体的に取り組むようにしています。学生が自主的に考えて、自発的に行動して段取りをし、顧客の意見をもらいブラッシュアップする、という経験は授業では成しえないものです。そして、私が手を加える際には、学生と私の差が何なのかをしっかり伝えるようにしています。次はその差を学生ができるようになれば社会に通用するものに近づくということですので。」

「『世の中に出ていくものか』どうかも確認させていただいています。自分たちが作ったものが実際に世の中に出ていくことによって学生たちの自信や達成感が全く変わってきます。乗り越えた先に得られるものがあるということを経験することで、次に向かうモチベーションにもなるんですね。」

 このように生み出された成果物はメディアなどからの注目度も高く、多くの学生が取材を受け、新聞やテレビに出ていきます。そうすることで学生の責任感が増すだけでなく、成果物のPR効果にも繋がり、ご依頼者様と学生双方のWin-Winが達成できます。

図1 富山・金沢G7教育大臣会合のシンボルマーク。
富山県と石川県が一つになることで、本会合がミライの、世界中の子供たちの教育を照らす太陽のような存在になってほしいという願いを込めてデザインしました。太陽の中にあるモチーフでは富山、石川の代表的な名所や名産を描きました。そして、その間をつなぐ共通モチーフとして人や水を描くことで、ステキな富山と石川が一体となって豊かに輝く太陽を表現しています。色は、富山、石川の彩り豊かな魅力を表現するために、レインボーカラーでまとめました。
(出典:富山県ホームぺージhttps://www.pref.toyama.jp/1002/kensei/kenseiunei/kensei/top/logo.html)

 

課題解決のためのデザイン思考

 経験の浅い学生が、どのように顧客を納得させる成果物を作り上げるのでしょうか?

「5W1Hのように、誰のために、なにを、いつ、どこで、どうやるというロジックの組み立てを徹底的に行います。社会に出て、デザインの世界で生きていこうとすると、顧客に納得していただかなければお金はもらえません。『なんとなく作った案』ではなく『ロジックに基づいた案』を組み立て、説明できるようになることもしっかり教えるべきだと考えています。」

 この考え方は成果物の品質にも直結します。直近の取組み例を教えていただきました。

「北陸自動車道・有磯海SA(上り線)で売られているスイーツのパッケージをリニューアルしたいとご依頼がありました。ただリニューアルするのは簡単なんですけど、通常半年程度でまた売り上げが下がってしまいます。そこで、+αの魅力・価値として『パッケージを通して富山の魅力を伝える役割』を持たせることをご提案させていただきました。有磯海SAに行くと富山の旅がもっと楽しくなる、そんなスイーツのパッケージができると素敵じゃないですか。」

 こうした考えをブラッシュアップしながら、商品の世界観という土台を固め、パッケージを完成させました。

図2 刷新された有磯海濃厚スイートポテトのパッケージ。
車で行きやすい富山の観光スポットのアイコンが散りばめられており、
富山の魅力や高速道路を使った旅の楽しさをもっと知るきっかけとなればという思いが込められている。(岡本先生ご提供)

 次のステップでは売り場づくりも行います。まずは現地調査を行い、現状の問題点や改善点を把握し、課題解決のための戦略を盛り込んだ調査報告書を作成しました。この中では、『商品の魅力をより正確に伝えるにはどうしたらいいか』『商品のブランド化に向けて醸成・定着させるにはどうしたらいいか』等の視点から、サイン計画や他商品の同ブランド化などを含む詳細な解決策を提案しています。今年度は具体的に売り場に展開し、効果検証を行っていくそうです。

 

今後の展望

「今までの経験の中で、富山に来て繋がった人たちを含め、多くの方々・専門家とのネットワークができました。別々だったネットワークを繋ぎ合わせて、世の中のプラスになる新しい取り組みができればと考えています。」

 富山県内企業のアルミファクトリー株式会社様との共同研究では、新規事業開発の立ち上げから携わりました。その中で生まれたのが災害時にベッドやテーブルになるパーティションです。日常使いしているものが緊急時には新しい価値に変形。ニッチではありますが、災害大国ニッポンでは必ず必要とされるものです。その隙間を狙ったのが今回の開発商品です。これまで別々だった能力が繋がることによって新しいものに生まれ変わった一例です。

(参考)いごこちラボホームぺージ https://igocochi-labo.com/

 

おわりに

 社会の課題解決と同時に、未来を担う人材育成に重きを置いている岡本先生の姿は非常に印象的でした。筆者は共同研究で学生が作成した報告書を拝読しましたが、一般のデザイン会社にも全く引けを取らない内容・クオリティに圧巻されました。今後の夢として、「目の前にいる学生たちが社会に出て、辛いこともいっぱいあると思いますがそういうものを乗り越えて活躍していく姿を見たいですね。」とお話いただきました。

 岡本先生にご依頼いただくことで、新たな展開や気づきが必ずあるはずです。共同研究等のご相談はOneStop窓口からお願いします。

(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)

リンク先

富山大学 芸術文化学部 教員紹介 https://www.tad.u-toyama.ac.jp/archives/teachers/okamoto

富山大学研究者プロファイルpure https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/tomohisa-okamoto

Researchmap https://researchmap.jp/read0195740

富山大学ニュースG7富山・金沢 教育大臣会合のグラフィックデザイン制作 https://www.u-toyama.ac.jp/news-topics/65555/

富山大学芸術文化学部「知っている?デザインすることの意味。」岡本 知久 https://www.tad.u-toyama.ac.jp/archives/campuslife/3537

富山大学地域連携推進機構インタビュー https://www.reg.u-toyama.ac.jp/human/439/