INTERVIEW

研究者インタビュー

富山大学 研究者インタビュー#32

2025年5月26日12:00

 

押出し成形技術で

イノベーションを

 

 船塚 達也 先生
富山大学 工学系 助教

 

船塚先生は、アルミなど軽金属の押出し加工技術を発展させ、
産業に貢献することを目指して研究しています

 

 紹介

 富山県の代表産業の1つがアルミ製造業です。船塚先生は、富山大学先進アルミニウム国際研究センター(以下、ARC)にも所属し、アルミニウムやマグネシウムといった軽金属の塑性加工、特に押出し加工技術を研究しています。
「富山大学での押出し加工研究の歴史は長く、第10代学長の時澤貢先生によって研究室が立ち上げられました。以来、産業界と共に富山県のアルミ産業を作り上げてきたという歴史があります。私は高校生の頃参加したオープンキャンパスで、時澤先生の後任である高辻則夫先生のお話に大変感銘を受け、この研究をすると決めました。こうして続く研究室のモットーに『実学』という言葉があります。学術的な知見を活かして、産業界に貢献するという意味が込められており、私もこれを実現するために研究に取り組んでいます。」

 

実操業を想定した押出し加工研究

 押出し加工は材料に圧をかけて、目的の形状をした金型(ダイス)を通すことで成形を行う技術です。この利点として、1段で複雑な形状の成形ができること、ダイスを取り替えることで多品種生産が可能なこと、さらに連続運転が可能で生産性が高いこと等が挙げられます。

いかに高強度のアルミを生産性良く押し出せるかということを突き詰めています。広い分野で、重い鉄から軽いアルミニウムへの変換が期待されています。そのためにはアルミニウムの強度を上げる必要がありますが、高強度になればなるほど加工が難しくなります。高強度材に含まれる化合物が表面欠陥の原因になりますが、その発生メカニズムを解明し、欠陥が出ないようにするにはどうすればいいかということを研究しています。」

 富山大学の目玉の1つは、大型押出し加工プレス機を所有するという点です。特に、ARCには国内最大の400トン規格のプレス機が設置されています。これは世界的に見ても随一のもので『すべての押出し工法の研究』が可能です。

「実操業では2000~4000トンのプレス機を使うことが多いですが、小型のプレス機ではなかなか実操業で扱っているような不具合を見つけられません。また、実操業の生産ラインを止めることも難しいです。そのような問題を解決するために、ぜひ大型プレス機をご活用いただき、実操業で起こる問題にアプローチし、企業様と一緒に問題解決をしていきたいと考えています。」

 

図1 400MT直間複動押出し加工プレス機
(出典:富山大学先進アルミニウム国際研究センター所有機器一覧
https://arc.ctg.u-toyama.ac.jp/instruments/)

 

リサイクルアルミへの応用

 ARCの持つ大きなミッションの一つがアルミリサイクルの研究開発です。アルミをリサイクルする際の難題は不純物が含まれるということにあります。不純物はアルミの表面に欠陥を作って強度を下げるので、一度アルミを溶かして精錬工程を経ることで除去されますが(図2)、完全に取り除くことは非常に難しく、処理にも大きなエネルギーを要します。

 

図2 富山大学リサイクルアルミの開発構想
(出典:ARCパンフレット https://arc.ctg.u-toyama.ac.jp/wp-content/uploads/2023/04/499398e28be879156094e20701442846.pdf

 

 船塚先生は、加工工程からのアプローチとして『ダイレクトリサイクル』を考案しています。

「この方法では、素性のわかるアルミを集めてチップ状に切り刻み、溶融せずにそのまま押出し加工で成形します。溶融工程を省くので、不純物が溶け出して悪さをすることもありません。通常の押出し加工でも成形は可能ですが、より強度を高めるために、私たちは古くからアルミサッシの加工などで用いられてきたポートホールダイス法をリサイクルアルミに応用しました。ポートホールダイス法は中空材(中央に穴が開いたパイプなど)を作るときに用いられる押出し技術で、一度原料のアルミを複数の流れに分流させたあと、再度合流させ、熱をかけて圧着させるというものです。これをリサイクルアルミに応用したところ、通常のアルミ品と比べ90%の強度まで担保することができました。」

 これだけの強度であれば、振動が強い用途を除き、代替が可能だと考えられています。今後は富山大学全体でより一層のリサイクルアルミの普及・発展に取り組んでいきます。

図3 ダイレクトリサイクルのフロー(https://doi.org/10.2464/jilm.70.415)
チップ状のアルミはポート部での分流を経て、チャンバー部で圧着後、成形される。

 

微小高機能部品に対応する押出し加工技術

 これまで説明してきた実操業に近いマクロな押出し加工だけでなく、電子部品や医療用ステントなどへの応用を視野に、マイクロ押出し加工技術も研究されています。0.1mm(100μm)程度の成形加工プロセスにおいては品質や生産性などが確立されたとは言い難く、押出し加工技術を応用することが検討されています。

「学部4年生のときから続けている自分の軸となるテーマです。博士課程では、この分野で世界最前線を走っていらっしゃるアメリカ・ノースウェスタン大学の堂田邦明先生のもと、2年間研究をさせていただきました。
 マイクロレベルになると、マクロではあまり影響のなかったアルミの結晶の大きさや結晶一つ一つの変形挙動、また、表面粗さに影響を及ぼす材料と工具との摩擦が、製品の品質ばらつきや不具合を生むという難しさがあります。これらをうまくコントロールして、バラツキのない高品質な加工を実現していきたいと考えています。」

 この留学を機に多くの海外研究者との関係を築き、国際研究を進める土壌を作ることができたという船塚先生は、日本だけでなく国際的にも貢献できるグローバルな研究者になっていきたいともお話しいただきました。

 

おわりに

「高辻先生から引き継いだアルミニウムの押出し加工研究は、富山大学として、富山県のためにも途絶えさせるわけにいかないものです。これを引き継ぎ発展させていくことが私の使命だと思い、今後も研究に取り組んでいきたいと思います。」

 大学・地域のため、まっすぐに研究に向き合う船塚先生の姿は非常に印象的でした。船塚先生は非常に多くのテーマに着手されており、アルミニウムに限らず最も軽い金属であるマグネシウム合金の鍛造加工等もテーマとされています。他の研究内容は以下のリンク先からご覧ください。

 共同研究等のご相談はOneStop窓口からお願いします。

(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)

 

リンク先

富山大学工学部機械工学コース 機能材料加工学講座 http://enghp.eng.u-toyama.ac.jp/labs/me03/

富山大学先進アルミニウム国際研究センター https://arc.ctg.u-toyama.ac.jp/

富山大学研究者プロファイルpure  https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/tatsuya-funazuka

Researchmap  https://researchmap.jp/funazuka-tatsuya

富山大学シーズ「軽金属材料の熱間塑性加工の高生産性の実現」https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/312

富山大学シーズ「ナノメートル周期溝工具による低摩擦加工特性の研究」https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/313