INTERVIEW

研究者インタビュー

富山大学 研究者インタビュー#33

2025年6月9日12:00

 

難病患者に

希望の光を

 

 岡田 卓哉 先生
富山大学 工学系 准教授

 

岡田先生は、医薬品としての利用を目的とした

低分子化合物の合成を研究しています

 

 紹介

 難病とは、根本的な治療法が確立しておらず、長期の療養が必要となる疾患で、患者やその家族にとって非常に苦しいものです。多くの難病では、患者数が少ないため、その治療に対する研究開発を行う民間企業や研究者が少ないことも問題となっています。岡田先生は、新たな作用機序を持つ新規化合物合成を研究する中で、難病にフォーカスを当てた化合物合成の研究開発にも取り組んでいます。

「私たちは医薬製剤としての利用を視野に、分子量500以下の低分子化合物の合成を行っています。その中で、患者数が少なく、民間の製薬企業が着手しにくい希少難病に対する治療薬についても研究を行っています。」

 

難病アミロイド病に対する治療薬の開発

 岡田先生らのグループは様々な難病に対する治療薬開発に着手していますが、その一例として、国指定難病であるアミロイド病(アミロイドーシス)に対するものがあります。アミロイド病は、トランスサイレチン(TTR)というタンパク質が、アミロイド線維を形成し、末梢神経・心臓・眼などに沈着して重篤な機能障害を引き起こす疾患です。既存薬では効果が十分でなく、特に眼に対しては一定の効果を示さないため、新たな治療薬が求められています。

 

図1 アミロイド病の発生メカニズム
(出典:2022年12月7日プレスリリース https://www.u-toyama.ac.jp/wp/wp-content/uploads/20221207_2.pdf

 

 この問題に先生のグループは着手しており、新たな治療薬へと応用可能な化合物の創製に成功したことで、複数のプレスリリースを行ってきました。2022年のプレスリリースでは他の研究でアミロイド繊維形成阻害効果が報告されているナリンゲニン(Naringenin)をベースに、2024年のプレスリリースでは他疾患の治療薬であるベンズブロマロンをベースに、その効能強化を図り、図2、図3に示す新規化合物をデザインしました。

「私たちの研究では、これまでに効果や機能が報告されている物質や既存の天然化合物をヒントに研究を進めることが多いです。例えば、すでに『〇〇に効く』と報告されている化合物があれば、効能強化や機能追加を目的に、ターゲットとなる新しい化合物の構造やその反応ルートをデザインし、実際の化合物を作製します。ターゲットの化合物を創るための手段は選びません。触媒化学、電気化学など、なんでも取り入れています。」

 また、原材料については、将来の実用化を見越して、できるだけ安価なものを使うようにしています。安いものから、スマートにスピーディーに、付加価値のあるものを作るということは、同研究室の豊岡尚樹教授もよくおっしゃっていることだそうです。

 

図2 新規フラバノン誘導体のデザイン
(出典:2022年12月7日プレスリリース https://www.u-toyama.ac.jp/wp/wp-content/uploads/20221207_2.pdf

 

図3 新規ベンズブロマロン誘導体の構造最適化デザイン
(出典:2024年5月7日プレスリリース https://www.u-toyama.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2024507.pdf

 

今後の展望~AIを用いた化合物の構造デザイン~

 2024年のノーベル化学賞ではAIを使ったタンパク質構造予測に関する研究が選ばれましたが、それに先立ち、岡田先生の研究グループでも、他大学との共同研究を通じてAIを活用しています。多くの疾患では、体内のタンパク質の異常が原因となりますが、『タンパク質のどの部分がどう折れ曲がっていて…』という立体構造に関する実験データがなければ、従来の創薬研究は進められませんでした。しかし、新たなAIを活用したシステムでは、タンパク質の立体構造がわからなくても、これまで蓄積された膨大な医薬ビッグデータの一部をインプットすることで創薬候補となる化合物の構造を提案してくれます。

「AIを使ってみて感じる利点は、人間が思いつかないような構造デザインを導き出してくれるという点です。最初はAIなんか・・・と思っていましたが、試しに合成してみると、本当に効果があるので驚きました。この共同研究では、AIシステムの『検証』といった役割を私たちが担っています。AIを活用した創薬研究の発展に繋がればと考えています。」

 AIによる斬新な発想と、AIにはできない化合物合成研究によって、これまで治療ができないとされてきた疾患・難病に対しても新たな突破口が開かれていく可能性があります。

 

おわりに

 難病情報センターによると、国内の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は100万人を超えます。受給者証を所持していない方を含めると、想像以上に多くの方が難病で苦しんでいるのが現状です。岡田先生自身も、「実は難病で・・・」という話を聞く機会があり、意外と身近に難病で苦しむ方がいるのだ、と難病治療薬の必要性を感じたそうです。

「難病=もう治らないと絶望される方も多いと思います。製薬企業が着手しにくいそのような分野で、私たちが研究を行い、苦しんでいる方々の希望の光になればと考えています。いつかは患者さんを救える薬を社会に出せたらというのが夢です。」

 創薬研究においては化合物のデザインや合成だけでなく、その効果を示す『評価』というプロセスも欠かせません。先述のアミロイド病に関する研究では薬学・和漢系の水口峰之先生らが評価を行い、共同で研究を発展させています。

「私たちは扱う疾患を限定することなく、社会で必要とされている医薬品であればどんな化合物でも合成しますので、企業・大学問わず連携させていただければと考えています。逆に、『こんな化合物を作ってほしい』というお話があれば、ぜひ私たちにご連絡ください。」

 他グループやAIとも積極的な連携を進める岡田先生。今後の研究成果にも注目です。共同研究、連携等のご相談はOneStop窓口からお願いします。

(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)

 

リンク先

富山大学工学部生命工学コース 生体機能性分子工学講座 http://enghp.eng.u-toyama.ac.jp/labs/lb08/

富山大学研究者プロファイルpure  https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/takuya-okada

Researchmap  https://researchmap.jp/takuya_okada

富山大学シーズ「有機合成化学を基盤とした創薬研究」https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/343