INTERVIEW

研究者インタビュー

富山大学 研究者インタビュー#57


2026年7月27日

 

次の時代を動かすモータ技術

加藤 雅之 先生

富山大学 工学系 准教授

加藤先生は、電気と磁気の力を活用したモータやアクチュエータの研究を通して、

人と機械の距離が近づくこれからの社会を支える技術の開発に取り組んでいます。

 

はじめに

 モータやアクチュエータをはじめとする駆動技術は、古くから機械を動かすための基盤技術として活用されてきました。近年では、電気自動車やドローン、ロボットなど、新しい機械が次々と登場するなか、求められる性能も多様化しています。

 富山大学工学部電気電子工学コースに2026年4月に着任した加藤雅之准教授は、モータ・アクチュエータを中心に電気と磁気の力を活用したさまざまな研究開発に取り組んでいます。

「元々はパズルのような面白さがある化学が好きだったのですが、大学で電気・電磁気学を学ぶ中で、その美しさを感じました。研究室配属後は、試行錯誤しながら手を動かして研究を進めるのが楽しくやりがいがあり、研究者になろうと思いました。」

 研究室配属直後に博士進学を決意した加藤先生は、修士課程1年次に国際学会で2件の口頭発表を行うなど、早くから精力的に研究に打ち込んできました。最近では、日本機械学会や日本AEM学会から研究成果を評価され、学会賞や技術賞を受賞しています。今回は、これまでの研究成果と今後の展望についてお話を伺いました。

図1 アクチュエータの種類と特徴(加藤先生ご提供)。アクチュエータは電気や磁気などの力を利用して、動きを生み出す装置の総称であり、モータはアクチュエータの一種である。

 

リニア振動モータの実装技術開発

 学生時代に最初に取り組んだテーマは、電動シェーバー(ひげ剃り)に使われるモータの制御技術でした。

「一般的なモータは回転運動をしますが、シェーバーの中に入っているのはリニアモータといって、直線運動をするタイプのモータです。刃を高速振動させてひげを刈り取るため、リニア振動モータとも呼ばれます。少ないエネルギーで大きな振動を生み出せるため、小型のシェーバーにも適しています(図2)。従来の電動シェーバーは、ほぼ一定の出力で動作するものが一般的でした。そのため、ひげが濃い人ではひげが引っ掛かってブレーキになってしまったり、逆にひげが薄い人では必要以上の力が加わり、肌への負担になることもありました。」

 そこで研究では、モータにかかる負荷の変化を検出し、その情報をもとに出力を調整する制御技術の研究に取り組みました。さらに、専用のセンサを追加するのではなく、モータ内部に生じる電磁誘導の信号から状態を推定するセンサレス制御技術も開発しました。この研究は企業との共同研究として進められ、特許化・製品化にもつながりました。学生時代から製品化を意識した研究に取り組んできた加藤先生は、現在も社会での活用を見据えながら研究テーマに取り組んでいます。

 

図2 小さいエネルギーで大きな振動を得られるリニア振動モータの活用例(加藤先生ご提供の図を筆者にて編集)。
例えば、ブランコの前後の動きに合わせて足を動かすと、揺れを大きくできるように、物体は揺れやすいリズム(固有振動数)を持ち、それに合わせて振動させると大きく揺らすこと(共振)ができる。

 

多方向に動く、多自由度アクチュエータ

 博士課程では新たなテーマとして多方向に同時に動かせる『多自由度アクチュエータ』の研究に取り組みました。一般的なモータは、一つの回転軸を中心に動作しますが、ロボットの関節などには、一台で複数の方向へ柔軟に動く機構が求められる場合があります。

「コイルに電流を流すと磁力が発生し、物を動かすことができます。例えば、x軸方向に動かすための電磁石と、y軸方向に動かすための電磁石を組み合わせると、それぞれの方向へ動かすことができます。しかし、多方向に動かせるようになると、軸同士が相互に干渉してしまうことがあります。研究では、その影響を抑えるための構造や、力・位置の制御方法を検討してきました。」

 この技術は、従来は複数台のアクチュエータで実現していた動きを1台で担える可能性があり、システムの小型化や軽量化につながります

 

永久磁石と電磁石、その長所を活かす「永電磁石」

 加藤先生が現在も力を入れているテーマが『永電磁石(えいでんじしゃく)』の研究です(動画1)。

動画1 永電磁石の原理説明動画(加藤研究室Youtubeより)

 私たちが日常でよく使用する『永久磁石』は、電気を使わなくても物を保持できるのが特長ですが、一度くっつくと外すためには力が必要です。一方、『電磁石』は電流を流すことで吸着し、電流を止めれば簡単に解除できますが、吸着力を保持するためには電流を流し続ける必要があります。永電磁石は、こうした両者の長所を組み合わせた技術です図3)。物をつかむ時と離す時だけ電気を使い、それ以外は永久磁石の力だけで保持できるため、高い省エネルギー性能を実現できます。近年ではドローンを活用した構造物の外観検査やロボティクス分野で注目されています。

 

図3 他の電磁吸着方式との比較(加藤先生ご提供)永久磁石は自身を磁力源とするため無電力で磁気力を維持できるが、その力をオンオフできない。電磁石は力制御が可能だが,磁気力を維持するために継続的な通電を要し,発熱や動作効率の課題を生む。永電磁石は両者の利点を兼備し、周辺との磁気干渉も抑制できるため、用途次第では高い優位性を発揮する。

 

 加藤先生の研究のポイントは、異なる2種類の永久磁石を組み合わせている点にあります。

「どんな磁界を受けても磁石であり続けようとする『ネオジム磁石』と、外部から磁界を加えることで磁化状態を変えることができる『アルニコ磁石』など、異なる特性の永久磁石を組み合わせています。アルニコ磁石は外部から磁界を加えることで、N極とS極の向きを反転させたり、あるいはゼロの状態にすることができます。こうした特性を利用し、アルニコ磁石の状態を電磁石で制御することで、永電磁石全体の性質を変えることができるのです(図4)。」

 こうした仕組みを実現するためには、磁石の物性を正確に理解した上で、数値シミュレーションや磁界の制御方法、回路設計などを検討する必要があります。また、多種類ある磁石の使いこなし技術も今後の研究課題となります。

 現在はこの技術をドローンによる物資輸送へ応用する研究も進めています。特に災害時や過疎地域への物資輸送を想定し、ドローンのバッテリー消費をできるだけ抑えるために永電磁石を使用しようと考えています。さらに、ドローンに搭載されているモータ用の駆動回路を活用し、永電磁石の制御も行うのです。新たな回路を追加せずに実現できれば、システム全体の軽量化や低コスト化も期待できるため、今後の発展に注目です。


図4 永電磁石のイメージ(加藤先生ご提供の図を筆者にて編集)。(a) アルニコ磁石とネオジム磁石の磁極が反対向きになっていると、磁束は永電磁石内部を通るため、外部にはほとんど磁場が現れず、吸着力が発生しない。(b) 電磁石(黄色部)に電流を流して磁場を加えると、アルニコ磁石の磁化方向が反転する。するとアルニコ磁石とネオジム磁石の磁極の向きが揃い、両者の磁力が加わるため、全体として強い磁石として働く。

 

おわりに

 これまで電磁気の力を活かし、モータやアクチュエータの可能性を追究してきた加藤先生。その先に見据えるのは、人と機械の距離がさらに近づく未来です。

「モータでいうと、元々は産業用に工場のポンプやファンなど、人と遠いところで動いていたと思いますが、ドローンやサービスロボットなど、人との距離が急激に近づいています。静音性や振動の少なさ、安全性など、人の近くで動くからこそ生まれる新たな技術課題も数多くありますので、そうしたところをクリアにしていくような研究をしていきたいと思います。」

 また、富山県出身の加藤先生は富山県内企業との連携にも意欲的です。

「地方創生の必要性が高まる中、地方大学の役割は更に大きくなっていると思います。前の大学でも地元企業との連携や地域への貢献を意識してきました。今回、生まれ故郷である富山に帰ってきたことで、恩返しという意味でも、その気持ちはさらに強くなりました。これから、ぜひ多くの企業とお話しする機会を作っていきたいと思います。」

 学術指導・共同研究等のご相談はOneStop窓口からお願いします。

(文責:学術研究・産学連携本部URA 浮田)

リンク先

 加藤研究室ホームページ http://www3.u-toyama.ac.jp/act/index.html

 富山大学研究者プロファイルpure  https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/masayuki-kato/

 Researchmap  https://researchmap.jp/7000029401

 富山大学シーズ「電磁モータ・アクチュエータ・電磁力応用機器の研究」 https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/436