INTERVIEW

研究者インタビュー

次世代のワクワクを

創り出す

 

内田 和美先生

富山大学 芸術文化学系・教授

 

内田先生はプロダクトデザインやトランスポートデザインなどの研究を進めており、
ゼミ生の多くは日本を代表するモビリティメーカーに就職して
デザイナーとして活躍しています。

 

「内田研究室」の役割について

ーー研究室について教えてください。

 この場所はまさに、所狭しに様々な展示品で満ち溢れています。私たちはここを“デザインのドンキホーテ”と称しています。まるでここは、デザインが生み出す独自の世界を作り出してます。

 学生が中心となり、彼らが企業に入社して作り出す作品や、将来にわたる展開を視覚化することが、この部屋の役割となります。ここは仲間たちが集い学ぶだけではなく、未来や理想の自己をデザインの中で見出し、その旅に出るための扉のような場所です。ドラえもんのピンクの扉ではありませんが、将来への「どこでもドア」と言えます。

 一方で、研究員や教員は研究室のプライドを持ち、インパクトファクターを通して社会に認知されたいと思っています。私たちの目標は、デザインの力を活用して、ワクワクしながら豊かな社会や人生を自ら創造する人材を育成することです。そのためには、学生たち自らの気づきと創造力が重要です。その目的を達成するためにファブリケーションラボラトリーがあります。ここでは、実際に車の3Dプリンターで車の部品を製作し、車の組み立てを進めています。

 また、このアルミは工学部の工場で切削加工され、ここで組み立てられています。このプロセスは、近未来の新しい車両のあり方を具体化し、実証することを目的としています。私たちはここで、デジタル技術と既存ツールを駆使し、単に事実や情報に流されるのではなく、深い思考を重視しています。

 この学部は比較的新しく、設立から10年余り。名門校が多い中で、総合大学として、新しいデザインを生み出し、それを実生活に応用することを目指しています。例えば、こちらにある車は昨年のグッドデザイン・ニューホープ賞を受賞しました。

 

ーーそれは、すごいですね!これは完全にオリジナルデザインですか?

 はい。そうです。展示されているのは、ただのモデルカーではなく、実動するコンセプトカーです。そして、実際に走ります。日本ではまだ一般的ではないですが、欧州で見られるカテゴリーの車をモデルにしています。バックライトを含め、全ての機能が実装されている点が特徴です。

 ただし、この車は国内の規制に適合していないため、公道での運転はできません。特筆すべきは、このプロジェクトが修士や博士レベルではなく、学士レベルで実現されていることです。これは、学士課程を終えた学生が自動車メーカーへ進むことを見据えた卒業制作です。

 多くの学生がマツダやホンダなどへ就職し、そこで自らのキャリアを築いていくため、学士レベルでの実践的な経験が重要なのです。

 

企業が求める人材について

ーー企業はどういう人材を求めているのですか?

 企業は、若くて柔軟性があり、早く成長する人材を求めています。ここでは学生たちが、自分の未来の車を実際に製作し、それにまつわる物語を自らの手で紡ぎます。博士レベルの専門性よりも、未だに染まっていない若い人材、良質な人間性を持った人材が重宝される傾向にあります。この点で、自動車業界は他の業界と異なると言えるでしょう。

 正直に申し上げると、研究にのみ注力する人材よりも、実現力や具現化能力を持ち、自らの限界を設けない人材が求められています。まだ形になっていない夢をしっかりと捉え、それを具体化できる人材を望んでいます。これは、人間力や未来を見越す力を持った人材です。

 メーカー関係者もまた、この部屋の雰囲気を通じて、私たちが重視する人材育成の特徴を感じ取っているとのことでした。

 

産学連携の重要性

ーー企業とはどのように連携されていますか?

 前期には、ここでホンダの授業を開講しており、CMFに関するもので、全学年の学生が対象です。4期目では、ダイハツの授業を実施します。ダイハツのデザイン部長が来訪し、現場スタッフが参加して、実際の人材育成プログラムを展開します。

 本来は3年生向けですが、1年生や2年生も受講を歓迎しています。ダイハツもこれに同意しています。というのも、これは人材育成を目的としているため、適切に設計されていれば問題はありません。大学の教育プログラムの枠に囚われず、人を育て、段階的にこの世界に慣れ親しんでもらうことが目的です。

 企業側ではエントリーレベルからエキスパートレベルまで、教育プログラムを柔軟に設計しており、我々はそのサポートを進めています。

ーー様々な有名メーカーや企業の関係者が、こちらを訪れているんですね。

 はい、実際に日産やトヨタの方々も最近訪れました。来年はトヨタやダイハツに進む学生もいます。また、AIを扱う方々との交流もあります。私たちは多くのメーカーと連携しており、彼らからのサポートを受けるとともに、講習会や教育プログラムへ人材を派遣してもらっています。

ーー授業においても、これらのメーカーの協力があるのですか?

 はい、例えばインターンシップについてですが、現在マツダでのインターンシップが行われています。モデリング講習会も終了し、インターンシップも終わりました。3年生、2年生、1年生も参加しています。文部科学省の規則により、正式な「インターンシップ」とは呼べないかもしれませんが、私たちは規則に縛られず、インターンシップと同様の経験を提供しています。未来を具体化し、設計の想像力を育成するためには、実際の体験が欠かせないと考えています。

 体験を通じて最も重要なのは、自分の目で現実を見て、五感を通じて感じ取り、憧れの人物や描いていた未来に触れることです。これは、自分がどうありたいか、どうなりたいかという願望を現実の中で具体的に捉えることを意味します。このプロセスを経ることで、自らが設定した限界を超え、新たな挑戦に踏み出す勇気が湧いてきます。この「やってみよう」という気持ちが、未来を形作る力となるのです。

 そうしたモチベーションが、自分の潜在能力の扉を開く鍵となります。私たちは、学生にそういった貴重な体験の機会を提供しています。何よりも、実際に自らの目で見て学ぶことの価値を重視しています。オンラインの枠を超えた教育も目指しており、この業界に若い人材を多く引き込むことが重要だと考えています。

 昨年と一昨年は、北陸連合のプログラムでいくつかの問題に直面しましたが、それでも前進を続けました。また、私が過去にポルシェで働いていた経験を生かし、ポルシェの山下周一さんを招いて講義を実施しました。ドイツから来ていただき、シンポジウムを開催すると共に、ポルシェデザインに関する講義を実施しました。この授業は当校の学生だけでなく、他大学の学生も招いて開催しました。学校の枠を超えて、このような機会に触れることで、学生たちの現実の世界が広がり、新たな可能性が生まれると考えています。

 こうした機会がなければ、容易く閉鎖的な思考に陥りがちです。確かに研究は重要ですが、それは点として特化に偏りがちです。

 

私たちの目的は、次世代のワクワクを創り出すこと

ーーどのようなことがあり、お話しされたような教育プログラムを作られたのですか?

 私はもともと教育者ではなく、カーデザイナーとして、またプロダクトデザイナーやインダストリアルデザイナーとして活動してきました。

 この経験を生かし、大学の外に広がる世界、その多様な景色を学生たちに伝え、大学の設備や教育施設を通じて彼らの理解を深め、育成していくことに焦点を当てています。私の目的は未来を創造することであり、単に研究にとどまらないことです。

 研究は、社会や人々の変化に対する目標を持つ際の手段の一つであり、あくまでも「おかず」のようなものです。私たちの目的は、次世代のワクワクを創り出すことです。学生たちは未来の種であり、ここでデザインを通じて次世代を育む方法を探求しています。これがこの教室の目的であり、現在もここで行っていることです。

 私自身の専門知識と経験が深いため、それを活かして学生たちを指導し、彼らが知識を深く吸収するよう努めています。まるで骨の髄まで吸い取られるような献身的な教育ですが、それが次世代の刺激となり、彼らの成長に寄与するならば、それで良いと思っています。

 

「生きたデザイン」を目指す

ーー授業で重点を置いていることは何ですか?

 授業では実践的な内容に重点を置いています。私たちは「生きたデザイン」を目指しており、デザインはまるで生きているかのようなものでなければなりません。それは「キトキト」(新鮮)であることが必須です。社会の速い流れの中で、鮮度を保ちつつ、それを活かした提供ができるかが重要だと考えています。

ーーつまり、生きたデザインを作り上げるためには、実践を通じて積極的にチャレンジし、学ぶことが重要ということですね?

 確かに学びや気づきは大切ですが、それを超えて知識を活かす、すなわち具現化する力が必要です。研究の意義について「何のために行うのか分からないが、大切だ」という意見がよくありますが、私は一定の理解を示します。ただ、すぐに具現化することが目的かと言われれば、そうではないと思います。ビジョンを持ち、そのための研究の意味を、順序正しく、あるいは逆の流れで考える広い視野が非常に重要です。

 一点だけに集中するのも問題ですが、見えている世界だけに留まるのも不十分です。また、周囲だけに目を向けて本質を見失うのも良くありません。これら両方のバランスを取ることが重要です。

 私にとって、デザインを進めながら専門性を発揮する際、最も重要なのは、そのデザインが最終的にどのように実用化されるか、出口にどれだけ繋がっているかです。ドイツでの経験もそうでしたが、単に未来を見越すだけではなく、伝統を含め、過去の進展と、未来に形成される新たな領域と繋がっていないと、デザインは弱いものになってしまいます。

 ドイツで長く過ごしたことから、私はデザインを進化という観点から捉えています。ポルシェの家紋のようなデザインがその一例です。その結果、現在という時点で過去と未来の間に立ち、広い視野を持ちつつ、自分の方向性を正しく定めて前進していました。

 現場出身として、私は生きたデザインを実現するために必要なこと、即ち、学生たちと共に何を創り出すかを共有し、共感し、理解し、具現化し、進化させる事を進めます。富山大学芸術文化学部では、そうしたことが実現可能であり、それがこの場所の素晴らしい点です。

ーー富山大学芸術文化学部ではなぜ「生きたデザイン」を実現しやすいのでしょうか?

 富山はアートだけではなく、工芸や日本の伝統芸術が深く根付いている場所です。ここには振られることなくしっかりとした芯があり、これはドイツでも重視されている文化的側面です。富山ではそれが言語化され、しっかりとした根底があります。

 建築でいうと、しっかりとした杭や基礎があるため、上に伸びて行くのです。このような文化的資質や素養が根付いているから、たとえ私が少し振動を与えたとしても、それに耐えられるだろうと思います。

 

デザインは、本質的に絡み合いです。

ーー伝統工芸を教えながら、同時にインダストリアルデザインも教えていますね。これは一見相反するように見えますが、実際はうまく融合していますね。

 富山大学芸術文化学部にある技芸院、つまり文化財保存・新造形技術研究センターにおいて、私は副センター長を務めています。

 技芸院と聞くと古い伝統を守るだけのように思われがちですが、実際には先端技術も取り入れながら、両者をバランスよく進める取り組みをしています。来年も再来年も継続して行う予定です。これが可能なのは、富山大学が総合大学であることの特性によるもので、これが単科大学との違いであり良さです。

 工学部があることから、多様な技術や素材、ソフトウェアを含めたコントロールなど、様々な要素が身近にあり、これらを活用する土台がここにあります。重要なのは、これらの要素から新たな共鳴や面白い絡み合いをどのように生み出すかです。素粒子論とは異なりますが、その絡み合い方が魅力的です。

 デザインは、本質的に絡み合いです。答えではなく、気づきと問いの形を取ります。それによって人は進化し、変化します。デザインはハードとソフトが微妙に混じり合ったユニークな世界で、学生たちは本能的にそれを理解します。ですから彼らはここに来るのです。

 その発見や気づきを抑え込まないように、私たち教員も時代遅れにならないよう進化し続ける必要があります。ここでのテーマは「未来を共に旅する」です。豊かな未来を創造するための基盤がここにあります。富山は北陸に位置し、周囲には豊かな自然資源と文化があります。

 都会とは異なり、人間の欲や短期的な経済論ではなく、人の生き方や地域性を重視した魅力が豊富です。長期的な取り組みに適した場所です。山も海もあり、立山もある自然豊かな場所です。金銭では計り知れない魅力がある場所で、小さいながらも、その魅力についてデザインを通じた研究で探求しています。

 

ワインデキャンタCarafageについて

ーーCarafageについて教えてください。

 Carafageは、ガラス製オブジェが電磁浮遊しながら回転するワインデキャンタです。このオブジェはチューリップや立山など富山をモチーフにしており、磁気浮上技術によって回転しながら浮遊し、特別な富山の記憶を演出しています。

 Carafageに関しては、展示会の際に流したビデオを見てもらうといいでしょう。これは私のYouTubeチャンネル(チャンネル名:富山大学芸術文化学部 内田研究室(プロダクト&トランスポートデザイン))にある研究室紹介の中で、Carafageを映像化したものです。ロケは氷見のワイナリーSAYS FARMで行いました。SAYS FARMは、もともと塩味が特徴の魚屋が始めた塩の香りを感じるワインで、現在はSAYS WINEとしてブランド化されており、特に白ワインは入手困難な状態です。展示会でずっと流していた映像は、実はスマホで撮影したものでしたが、電磁浮遊してクルクル回る様子が美しく映っています。

 この映像は私の家で撮影し、学生たちと「展示会に向けてムービーを作ろう」という話になり、ついでに食事会も開いた際のものです。当時撮影に参加した一人は現在LIXILで家具やキッチン設計を担当しており、もう一人はホンダでクレイモデラーとして活躍しています。

 この映像は、電磁浮遊技術が私たちの生活をどう豊かに変えるかを示すプロモーションビデオです。氷見のワインやその地域、日常生活がどのように彩られるか、美やライフクオリティスタンダードを表現しています。ガラス富山をはじめ、多くの方々の協力を得て制作しました。

 以上がCarafageの概要です。工学や技術系に関心がある方には、フルサイズの動く犬のモデルをご紹介したいと思います。これは工学というよりは、動態系に関するもので、動力や機構に焦点を当てています。ここに来ると、もはやデザインというよりはアートの領域になるかもしれません。その学生はキッチンメーカーへ進みました。

 

デザインの本質について

ーーデザインの本質は何だとお考えでしょうか?

 具体化や実現力がなければ、考えは単なるつぶやきに過ぎず、人々を動かすことはできません。そうした考えはスマートフォンの中の世界に留まり、社会に変革をもたらす力にはなりにくいのです。アフターコロナ時代においても、実際に体験し、それを共有することが重要です。情報の密度が高い場所に行くことで、オリジナルの価値やそこに行く意味が生まれます。一方で、デジタルの簡易的なものはすぐに廃れ、消費されてしまいます。

 人生のリアリティを考えたとき、VRやMRには存在価値がありません。試しに使ってみることはありますが、それが本質的な価値を見出していない限り、何も生み出せないでしょう。例えば、温泉や新鮮な食事をVRやMRで体験したいとは思わないはずです。

 富山に行きたいと思うように、豊かな社会を創造するための価値や意味を探求することもデザインだと考えます。私が考えるデザインの本質は、人々や社会から求められるデザインを生み出し、豊かな社会を実現することです。自動車メーカーの人たちは「ワクワクする未来を作ろう」と言います。そのためには、ワクワクするような人材を育成することが必要です。結局、会社は人で成り立っています。そのために、メーカーから人材を派遣してもらって教育する、共同研究するなど、様々な活動がこの目標につながっています。

 

研究室の様々なプロジェクト

ーーその他、研究室のプロジェクトにはどのようなものがありますか?

STEAMデザイン 水紋の器

 こちらは水紋を表現する器です。その特徴は振動波形を可視化することにあります。水の振動数が一定の振動で波を形成する際、3点で干渉縞を作り出せることが分かっています。これはGPSの原理に似ており、4点があれば空間を特定できますが、水面上に3点の波を作ることで干渉地点を作成し、そこから生じる波形を水で表現するのがこの器のコンセプトです。

 波と人の癒しに関連して、現代物理学では「世界は波で構成されている」とされています。そのため、水と波は非常に魅力的です。内田ゼミでは、自然物の扱い方や自然現象の取り扱い、それらを科学的に理解し人々に気づきを与える方法が常にテーマです。私たちは車を描くだけでなく、自然の法則をE=MC^2のような数式で表したり、言葉やビジュアル、音で表現することで、根源的な美を追求しています。これがこの研究の一環です。

 この装置によって、水面の波が動きます。

ーー紙の上に鉄粉を置いて音波を当てると干渉縞ができる実験もあるようですね。

 具体的な名前は忘れましたが、波形には特定の文様が存在することが知られています。その波形、文様は紀元前から存在し、自然が作り出す模様です。これを温故知新の精神で再検討し、私たちの暮らしに新しい表現や気づきをもたらすことを目指して、このプロジェクトを実行しました。

モビリティデザイン ポータブルな車(♭ bike)

 こちらはモビリティデザインになります。デザインした学生は現在、日南という自動車会社でプロトタイプモデルの部門に勤務しています。

 実際に動くもので、このデザインを公開した後に、いくつかのメーカーがオールフラットに変形する車を開発し発表しました。これが直接の影響関係にあるかは定かではありませんが、何らかの影響を与えた可能性はあります。

ーーポータブルな車ということですね、興味深いですね。

 特筆すべきは、この車のステアリングがVベルトで動き、バイワイヤーシステムを採用していることです。つまり、物理的に直接つながっていないわけです。このような機構も私たちが考慮している要素です。このプロジェクトは内田ゼミの車ではなく、工学だけでなく自然の美に関する研究の一環として、2017年に開始されたものです。

食紙

 次に食紙についてご紹介します。見た目は普通の紙のようですが、実際には自然由来のファイバーを使用して作られています。これはトマト、オレンジ、ナスなどから抽出されたナチュラルファイバーで作られた紙で、食感を損なわずに食べれます。折り紙のような形状なため、器としても使用でき、さらには廃棄物を出さないという環境面での利点もあります。

ハイエンドのInes (ev bike)

 こちらはハイエンドのInes (ev bike)に関するプロジェクトです。同じゼミの仲良し学生3人が手掛けたもので、そのうちの一人はホンダのバイク部門でev bike、つまり電動自転車の開発に携わっています。ev bikeは最近市場に登場しましたが、私たちは5〜6年前からev bikeの開発に取り組んでいました。動くモデルではありませんが、ジュエリーのようなバイクをデザインしました。

 このプロジェクトのテーマは「変わる形」とは何か、ということでした。まだ市場にないハイエンドのe-bikeをデザインし、そのサイズでスタイルプロトタイプを作成しました。この作品は3Dプリンターを使って作られたもので、3Dプリンティング技術がまだ初期段階だった頃の製品です。研究が教授だけではなく、学生たちと共に行われていることがお分かりいただけるかと思います。

 未来を共に創造するためには、教授一人が先導するだけでは十分ではありません。みんなで一緒に歌い、踊る必要があります。私は教授というより、リーダー、コンダクター、アートディレクターの役割を果たしています。

手ぬぐいforyou

隣で作業している学生が取り組んでいるのは「手ぬぐいforyou」というプロジェクトです。これは単なる手ぬぐいではなく、超撥水技術を用いています。この技術により、手ぬぐいを使って様々な水遊びが楽しめるようになっています。水をはじくので、サッカーやお風呂での遊びが可能です。伝統技術の活用とそれをどう楽しむかを実際に作り、展示しています。これはまさに伝統工芸との融合を表しています。

水の器(ウォーターベゼル)

「水の器(ウォーターベゼル)」というプロジェクトは、ハスの葉をモチーフにしたもので、私たちの研究室らしいテーマです。超親水性と超撥水性に焦点を当てた時期のもので、これまでの「手ぬぐいforyou」からの影響を受けています。また、水紋の器はこのプロジェクトから少なからず影響を受けています。

見た目は模様のようですが、実際には穴が開いています。水の撥水効果を利用した器であり、これによって器の定義自体が変わる可能性があります。超撥水成形が可能で、自然が持つ珍しい表情を表現し、さまざまなドラマを生み出します。オリンピックの際におもてなしに使用できたら素晴らしいと話していましたが、残念ながらコロナの影響でプロジェクトは中断し、製品化寸前でメーカーが撤退してしまいました。

ーーコロナが収束した今、プロジェクトの再開の可能性はありますか?

内田氏:メーカー側にその体力があればという話です。この製品を使うことで、食事の体験が変わるでしょう。例えば、お寿司に醤油を合わせる際に、これを使って楽しめます。皿の形状も異なるものになるでしょう。

ハスの葉を連想させ、自然現象の素晴らしさを思い出させ、美しさを感じさせるデザインです。それは楽しさでもあります。

また、別の学生が行っているプロジェクトでは、ユニット化された雨で遊ぶデザインを作成しています。

このように、様々なプロジェクトが同じゼミの学生たちによって同時に進められています。

ーーありがとうございます。学生たちが中心となって様々なプロジェクトに取り組んでいることがよくわかりました。

内田氏:私がここに来た主な目的は、未来の人材を育成し、そのための種を蒔くことです。これを教育の一環として捉えるのか、研究の一環として捉えるのかが重要です。

企業との関わり

ーープロジェクトを始めるきっかけはどのようなものですか?

内田氏:実は富山県には光岡自動車やタケオカ自動車工芸などの小規模な自動車メーカーがあります。北陸はものづくりの集積地であり、工場や産業の集積地でもあります。多くのメーカーの方々が富山を訪れ、私たちと一緒に食事や飲みをしながら、自然に車関連のプロジェクトが集まるようになりました。当初は車に関わる学生が一人もいませんでしたが、今では毎年多くの学生が出ています。

このようにして、点が線となり、線が面に変わっていきました。

次世代に繋ぐプラットフォームを作っていく

ーー企業との連携で求められるものは何ですか?

メーカーとの議論の中で、現状を変えなければ、2035年からは若年層の人口比率が急速に低下することが明らかになりました。

35歳前後の人口が半分になる見込みですが、これは単に数が半減するという意味だけではなく、質の面でも大きな影響があることを意味します。質は指数関数的に低下していく可能性があり、人口が半分になるとクオリティは単に半減するだけでなく、更に低下する恐れがあります。手をこまねいて待っているだけでは対応できない状況が訪れることを意味します。

老年人口が増加し、生産労働人口が減少するという現実があります。年を取ると創造力や想像力が低下し、体力や気力も減少していく。このような状況を避けるためには、今のうちに若い世代を育成し、次世代に繋ぐプラットフォームを構築することが不可欠です。

芸術系、デザイン系においては、ChatGPTや自動生成AIがどれだけ進歩しても、選択力や視覚的な評価能力が欠かせません。そうでなければ、単に迷走するだけになってしまいます。

専門職としての技能を磨くためにも、デザインの世界の魅力を学生たちに体験してもらうためにも、ここで挫折させるのではなく、彼らにワクワクを感じさせることが重要です。そして、そのワクワクを彼らの将来のビジョンに昇華させることが大切です。自分の未来を信じることが肝心です。そういったことをメーカーの人たちと話し合い、どのような取り組みが可能かを模索しています。授業を共同で行い、協力して人材を育て、ファーミングのような環境を作り出し、良質な育成を目指しています。

メーカーからはトップクラスの専門家をお招きしています。例えば、エクステリアデザインのトップの方がここでスケッチをされたこともあり、多くの学生が興味を持って集まりました。レンダリング事業の専門家も参加しています。そして、そこでのやり取りが、学生の人生に大きな変化をもたらすスイッチとなり得ます。会話や共に食事をしながらのディスカッションでは、彼らの「どうすればいいか」という質問に対して、具体的なアドバイスが交わされます。偏った情報ではなく、実際の生きた例に触れることで、学生の人生は変わります。私自身も大学時代に同様に経験しました。

大学はまさにそのような分水嶺、新たなスタート地点です。思い込みの世界から真実の自分と可能性に出会う場所です。私たちはそのような環境をここに作っています。これは一種のハブですね。

ーーこのハブには、民間企業やメーカーもかなり乗り気で参加していますね。

内田氏:共同研究といえども、ただ資金を提供するだけではなく、人材も派遣して、ここで一緒に取り組むように依頼しています。これは一時的なものではなく、継続的な関わりを求めています。

ーーその取り組みが素晴らしいと思います。

内田氏:人との繋がりが重要だと考えています。実際、その繋がりだけで多くのことが成り立っています。研究費が必要になったり、特定のプロジェクトを進めたいときは、産学連携チームを通じて契約を結ぶことがあります。

ただし、最もコストがかかるのは人件費です。やったことの量ではなく、その質が問われます。優秀な人材をどれだけ引き出せるか、相手がどれだけ本気で取り組むかが重要です。

ーーメーカーの本気度がすぐに見えるのは素晴らしいですね。

内田氏:自動車業界の一定のレベルにいるからかもしれません。同世代の人たちが部長として活動しており、彼らとは顔見知りです。問題は若手にあります。自動車メーカーに進む学生たちは3年生の終わり頃に内定が決まり、4年生にはすでに内定が決まっています。そこで「あと1年、しっかり教育してください」と言われます。

以前は素直に従っていましたが、最近は「教育するから、人材を出してください」と言っています。Give & Takeの関係を大切にしています。

大学とは別に、私はデザインスタジオを運営し、ストーブや鯖江のメガネなどのプロジェクトに取り組んでいます。現場での経験は大学での教育に活かされ、生産からグッドデザインアワード、IFデザインアワードを目指しています。

学生たちにプレゼンテーションや最終提案を見せ、彼らを成長させています。現場を知ることで現実を吸収し、それを楽しんでいます。デザインの「遊び」を通じて、ワクワク感を持って学ぶことが、単なる知識ではなく生きる知恵へと変わっていきます。技術だけでなく、自分で目標を設定する力も育っています。

内田ゼミのネットワーク

ーー内田ゼミで重視していることはありますか?

多くの大学が卒業生のフォローアップにあまり力を入れていない中で、私たちの内田ゼミには特別なルールがあります。”内田オールスターズ”というLINEグループがあり、11年前に卒業した生徒から現在の生徒まで繋がっています。私たちのゼミに入る生徒は、後輩を世話するという約束を守る必要があります。彼らはこのルールを律儀に守っています。例えば、車のプロジェクトを進めていた際も、ホンダで働くモデラーや他の生徒たちが、先輩たちとLINEやデータを通じて繋がり、お互いにサポートし合っていました。

ーーネットワークが構築されているのですね。

内田氏:そのネットワークこそが宝物です!このコミュニティを拡大し、互いに繋がりながら成長しています。私たちは皆、仲間だという認識があります。

ーーメーカーの垣根を越えた活動をされているのですね。

内田氏:はい、私たちはメーカーのルールをきちんと守ります。秘密情報は絶対に漏らしませんが、ゼミ内で「この車はこうだよね」とか「ここが重要だよね」といったことを大切に話し合います。ゼミで育まれた絆が、将来大きく花開くのです。後輩たちを見守りながら、より大きな世界が広がるのを見るのが私にとっては最大の喜びです。私たちはこれを「寺子屋」と呼んでいますが、「内田村塾」とも言っています。囲い込むわけではなく、仲間が増えていくことが、最終的な目標につながっていくのです。

ここに卒業した生徒たち、一人ひとりを3Dプリントした作品があります。触れることで分かる卒業生、というわけですね。

ーー卒業生ですね。ちゃんと本人のサインが入っています。写真から3Dプリンターで出力したのですか?

内田氏:非接触の3Dスキャンで出力しました。

富山大学の魅力

ーー富山大学の魅力を教えてください。

内田氏:国立大学では、真摯に大学運営を行わなければなりません。科研費を獲得し、様々な活動を真剣に行っています。しかし、メールでのやり取りや部署からの要求が多く、事務作業が増え続けているのが現状です。国立大学として税金で運営されている以上、これは避けられない部分もあるかもしれません。

私は海外での経験が長いので、日本は会議が多すぎると感じています。共有のための会議が多く、結果的に相手の時間を奪ってしまっています。日本人は、つながっていることに安心感を覚え、仕事をしていると感じています。

ーー確かに、そういう間接作業が多いですね。

内田氏:無意味な作業とは言いませんが、実質的には研究や本質的な成果、社会への実装、人材育成といったことが後回しになっている現状があります。

ーーその通りだと思います。

内田氏:国立大学、特に私たちの大学が取り組むべきことは、重要な部分に真剣に取り組み、コアな部分を強化しつつ、その他の部分は効率化してアップデートする必要があると感じています。私自身はあと3年で退職しますが、次の世代にこれを託したいと思っています。

確かに今は大変な時代ですが、クリエイティブでポジティブな姿勢を持った日本人、または外国人の特性を活かし、アーティストの想像力と具現力を高め、ワクワクするような人材を育成しなければ、私たちは埋没してしまいます。この点を何とか改善する必要があります。

活力は非常に重要です。私は、そのような活力を育む環境として富山大学が存在していることを願っています。ここには自由があり、自由が保護され、尊重される環境があるからです。

私立大学は時代の波に乗る専門性を重視し、コースや学科を頻繁に変更しています。しかし、これでは根っこが育ちません。

国立大学の素晴らしさは、変わらない部分を根っことして保持できることです。極論を言えば、教育方針は教授陣に委ねられており、これが私たちの自由行動を可能にしています。

富山大学でなければ、私が実現しようとしていること、現在実行していることは無理でした。その点にとても感謝しています。日常的な事務作業が多いことはトレードオフです。

長い間海外で生活してきた経験から、外の世界を見ること、広い視野で世界を観察することの重要性を感じています。現実を理解することは、生き生きと生きることにつながります。そのためには、枠にとらわれない自由が大切です。しかし、その自由は自分自身で創り出すものであり、自由の真の魅力を発揮するためには、自らその権利を獲得しなければなりません。そして、それには他者を納得させる力が必要だと思っています。

ーー貴重なご意見をありがとうございました。インタビューはこれで終了いたします。