富山大学 研究者インタビュー#55
2026年6月22日

月僧 秀弥 先生
富山大学 教育学系 教授
月僧先生は、生活や実験の中で生まれる子どもの発見を『学び』につなぐ
授業づくりや教員養成に取り組んでいます。
理科離れやSTEAM教育など、学校教育をめぐる言葉は近年、頻繁に取り上げられるようになりました。技術立国として歩んできた日本において理科教育は重要視される一方、理科は苦手意識を持つ子どもや学生が少なくないのも現状です。
30年間にわたり、小学校から高校までの現場で教員として経験を積んできた月僧秀弥先生は、そうした理科教育の課題を現場で実感してきました。転機となったのは、公立科学館への出向経験でした。
「科学館では、子どもたちが本当に楽しそうに理科に触れているんです。それは、学校の理科の授業で見てきた子どもたちの姿とはまるで違っていました。学校では実験の機会も限られ、どこか義務的に授業を受けているように見えた。その姿が、とても寂しく感じられたんですね。科学館で行ってきたような、子どもたちが楽しみながら自ら学ぶ体験を、実際の授業の中に入れられないだろうかと思ったのです。」
こうした問題意識から、社会教育で行われている科学教育を、学校の授業に持ち込む取り組みが始まりました。授業に取り入れ、改良を重ねる中で、月僧先生は科学コミュニケーションという分野で研究を深めていきます
月僧先生の専門分野である科学コミュニケーションは、『科学と人がどう関わるか』を考える分野です。その中で先生が重視しているのは、学校や生活の中で子どもたちが日々体験していることと、学びをどのように結びつけるのかという点です。
「子どもたちは生きていく中で、さまざまな体験をしています。それらを学びにつなげることで、『なぜ学ぶのか』が分かるようになります。教員の役割は、そのつながりを作ることだと考えています。」
そのために、子どもたちの気づきを出発点として授業を進めます。
「例えばレンズの授業では、まず自由に触って遊んでもらいます。それから、『逆さに見える』『大きく見える』といった発見を発表してもらって、教員がその気づきを整理していきます。そして、『じゃあ、ここから何を学ぼうか』と問いかけるのです。何を学ぶのかが分かると、子どもたちが主体的に学びに向かうようになります。」
授業の中で体験をさせるために使うのが『教材』です。世の中では、すでに多くの面白い実験が開発されてきました。月僧先生は、すでにある実験やアイデアを活用して教育に持ち込む、つまり、単なる体験で終わらせずに学びにつなげるという切り口で教材開発に取り組んでいます。
「例えば、これは音波を視覚的に見えるようにした教材です(動画1)。音が鳴った時,パイプの中の発泡スチロールの粒が動く様子から,音が波であることを確認できます。」
※注意:動画を再生すると音が出ます
動画1 パイプを使った波動の実験。
アクリルパイプに発泡スチロールの粒を入れておき、片側から一定の高さの声を出すことで、
音が実際の波として確認できる。
また、近年のICT化で科学体験が減少している未就学児を対象とした教材も開発しています。
「幼児向けには蓮の葉とスポイトを使った実験(動画2)をします。蓮の葉は微細な突起を持つ構造をしていて、非常に撥水性があります。スポイトから水を落とすだけの簡単な実験ですが、キラキラとした水玉ができるので子どもたちは喜びますし、スポイトを使う動きは指先の訓練にもなります。ヨーグルトが付かないヨーグルトの蓋の裏も蓮の葉をヒントに開発されたそうです。」
こうした体験を小さいうちから経験することで、将来、本格的な実験器具を触れるための土台にもなります。蓮の葉の実験は、小学校や中学校での学びにつなげられないかと検討されているそうです。
動画2 蓮の葉に水滴を落とす実験。
蓮の葉が身近にない場合は、ちまき用の蓮の葉が1枚10~20円程度で購入できる。
月僧先生は、実験を広く授業に取り入れてもらうために、安価で手に入りやすい材料を用いることを意識した教材開発を行っています。これまでのアイデアをまとめた書籍も複数出版されています。

図1 プロフィール写真の教材を横から見た図。裏側のストローをこすることで、形の異なる口から異なる音が出る。
月僧先生の授業づくりの考え方は海外での教育支援にも展開されています。
「令和4年からJICAとの共催でエチオピアの理科教育支援を行っています。初めて視察に行ったとき、昔の日本の授業と似ていると感じました。先生がひたすら話して板書し、子どもたちはそれを書き写すことに必死で、授業が理解できず離脱していく子も多いと聞きました。」
こうした状況を受けて、月僧先生は教育学部の教員数人とチームを組んでエチオピアの教員研修を始めました。その中では授業の構成そのものを見直していきました。実際の体験を通して、子どもたちの気づきを引き出し、『今日は何を学ぶのか』を提示するという、これまで月僧先生が行ってきた授業の形を習得するよう指導しました。
「3年目にエチオピアを再訪した際、研修に参加していない地方の学校にまで、私たちが指導した授業の形が広がっていることにとても驚きました。若手だけでなく、ベテランの教師も、私たちが教えた形を実践していたのです。なぜこの授業に変えたのかと質問したら、子どもたちがすごく一生懸命学ぶようになったのだと話してくれました。」
エチオピアでの成果は、『体験の中で生まれた気づきを学びにつなげる』という授業の仕組みが、国や文化が異なっても共有できるものだと実感する機会となりました。これらの取組みには、教育学部の学生も参加して刺激を受けています。2026年2月には、エチオピアのトップ大学であるアディスアベバ大学と学部間交流協定を結び、今後の発展が期待されています。
研究者・大学教員としての取組みに注力されている月僧先生ですが、その傍ら、サイエンスショーや実験教室を毎年全国で実施しており、大変人気があるそうです。そうした場で子どもたちの喜ぶ顔を見るのが何よりの喜びだと語っていただきました。今後は、楽しく学べる理科の授業を自ら作り出すことのできる教員養成に、より一層力を入れていきたいそうです。
「教員の一番の喜びは、教えた子どもたちが育っていくことだと思うんです。そのために『自分でよい授業ができた』という手応えを持つことが大切だと思っています。そうした経験があれば、自分のやっていることに対しても納得できるし、教員としての自己実現にもつながっていくのだと思います。」
子どもたちの実体験から生まれた気づきを、学びに向かうエネルギーへうまく変換する。これが子どもたちを夢中にさせる月僧先生の授業づくりの理由なのだと感じました。
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(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)
富山大学研究者プロファイルpure https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/hideya-gesso/
Researchmap https://researchmap.jp/_gesso
富山大学シーズ「理科教育・科学教育・STEAM教育」
https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/search/detail/429
富山大学、エチオピア国別研修のフォローアップセミナー開催
https://www.u-toyama.ac.jp/news-international/news-visits/132792/