INTERVIEW

研究者インタビュー

富山大学 研究者インタビュー#30

2025年4月21日12:00

 

 

スモールデータで

達成する異常検知

 

張 潮 先生

富山大学 工学系 特命教授

 

張先生は、ニューラルネットワークを応用した画像処理モデルを開発することで、

高速・低コストの表面異常検知システムを提案しています。

 紹介

 従来から製造業における外観検査には自動検査システムが開発されてきましたが、高性能カメラの導入やメンテナンスが高価であることから、現在も多くの工場で人の目による目視検査が行われています。張先生は、画像データにニューラルネットワークを応用することで、webカメラ程度の低画素数のカメラ数台と照明を設置するだけで、自動外観検査を可能とするシステムを開発・提案しています。

「私たちの目は非常に優秀で、正常データを数枚見た後に異常データを見ると、具体的に何が違うかわからなくても『違和感』を感じ取ることができます。一方、従来の異常検知システムは『教師あり学習』と言って、大量の正常データと異常データに加え、各々に『正常』『異常』の信号ラベルを収集し、ニューラルネットワークに学習させるという方法が一般的です。私の研究では、人の目と同様、数枚の学習データ、それも正常データだけを入力し、異常を検知することのできる画像処理システムの開発に取り組んでいます。」

 

異常検知を正常データ数枚で達成するカラクリ

 大量に入力が必要だった学習データがほんの数枚まで削減でき、しかも正常データだけで異常検知が達成できるようになれば、システムの高速化・軽装化・低価格化につながり、より多くの場所での活用が期待できます。どのようにして正常データ数枚で異常検知が可能となったのでしょうか?

「まず、この研究に取り組んだきっかけは企業様との共同研究でした。実際の製造ラインではなかなか異常データが出ません。特に、イベントや季節に合わせてパッケージを変え、多品種少量生産化している製造ラインでは、ますます異常データが得られないことが多くなります。正常データしか得られない条件での異常検知システムが広く求められていると感じました。」

 そのニーズに応えるため、先生の研究ではニューラルネットワークの応用に取り組んでいます。ニューラルネットワークには様々なモデルが存在しますが、基本的な考え方は図1のようになります。まず、画像データを分割し、各々の特徴を抽出して、ニューラルネットワークの構成要素である『人工ニューロン』に入力します。人工ニューロンは複数の層に配置されていて、各ニューロンの情報は次の層で共有されます。ここで肝となるのはW1~W4で示した各ニューロンへの重みづけです。生産ラインのニーズに合わせてこの重みづけを調節し、正しい異常検知システムを達成しますこの図は簡単のため画像データを4分割するケースを考えていますが、実際にはこの重みづけの係数Wiは数億もあります。張先生は独自のアルゴリズムを用いて重みづけを行い、システムの最適化に取り組んでいます。

 

図1 画像データをニューラルネットワークに応用する場合の考え方(筆者作成)

 

広がる社会実装

 張先生は様々な企業と共同研究に取り組み、この技術を社会実装に繋げてきました。特に、表面傷が問題になりやすい鋼板を扱う製造現場や、扱う個数が多い食品工場などです。

この技術は目視検査の代替になるものです。目視検査は目も疲れますし、これからの人手不足の問題もありますので、ぜひこのシステムを導入いただければと思います。欠陥の大きさは企業様の要望次第ですが、数mm単位が多いです。

 これまでの経験から社会実装での難しさは100%の信頼性を達成することだと感じています。学術的には90%でもすごいことなのですが、実際使うときには99.9%でも許されない。100%を達成するためには方法論だけではなく、照明の位置や角度の調整だったり、製造現場の振動への対策であったり、泥臭い仕事も重要であると感じています。そういったことも企業様と一緒に解決していきたいと考えています。」

 

図2 自動検査で検出した欠陥・結果例
(張先生ホームページ「産学連携」よりhttps://www.labzhang.com/industry-academia/)

 

今後の展望

「異常検知システムを、スマートフォンやスマートウォッチなどの小さなエッジデバイスと組み合わせていきたいと考えています。具体的にはスマホで数枚写真を撮り、数分間設定をするだけであらゆる異常検知に対応できるというものを作りたいですね。エッジデバイスなので計算能力が限られているなどのハードルはありますが、クリアしていきたいと考えています。」

 また、現在は静的な対象物だけでなく、人物動作の異常検知や、軌跡の異常検知など幅広い分野で研究を進めています。

 

おわりに

 張先生は中国・浙江省のご出身です。日本語が堪能で、これまでにも多くの日本企業との共同研究実績をお持ちです。スモールデータから異常検知システムを構築するという考え方は、製造業の目視検査に留まらず、多くの場面やサービスに応用できる可能性を感じます。張先生のホームぺージには多くの研究成果や他の事例が紹介されていますのでぜひご覧ください。

 共同研究等のご相談はOneStop窓口からお願いします。

(文責:学術研究・産学連携本部 コーディネーター 浮田)

リンク先

張研究室ホームぺージ https://www.labzhang.com/

富山大学研究者プロファイルpure  https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/chao-zhang

Researchmap  https://researchmap.jp/7000028123