#11 歌 大介先生

daisuke_uta

富山大学研究者インタビュー#11

2024年5月28日12:00

 

 

 

 

 

 

痛みと向かい合う

 

 

 

歌大介先生
富山大学 薬学・和漢系・准教授

 

富山大学杉谷キャンパスにて(撮影:筆者)

 

 

歌大介先生は、痛みの情報伝達回路およびその制御機構に多角的にアプローチする研究をしています。

 

紹介

 

 医療の現場では、患者にとっても医師にとっても、疾患や投薬によって生じる痛みやかゆみ、しびれといった不快な異常感覚と向かい合うことが避けられません。患者のQOLの低下や治療、闘病への意欲低下の原因となるこのような現象に対して、ニューロンの反応性からアプローチする歌先生の研究領域は、神経科学および脳科学、あるいは免疫とも関連した生体防御反応との結節点とも言える複雑な領域です。このような研究領域において歌先生はこの2年間で、アトピー性皮膚炎の痒みの原因解明(https://www.u-toyama.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2022230106_2-1.pdf)や、抗がん剤として広く流通しているオキサリプラチンと疼痛との関係やその新たな副作用(doi: 10.1248/bpb.b23-00263. Epub 2023 Jun 17.PMID: 37331804 )について、さらには低出力レーザーによる治療効果の解析など、多岐に渡る研究成果を次々と発表しています。その痛みから見える領域の最先端の動向と歌先生の現在の研究について、そして今後について伺いました。

 

痛みという領域の広がり

 

 「痛いと感じる」場面に私たちの日常生活は取り囲まれています。腹痛や頭痛といった身体の異常を伝える病気に関連した突発的な痛みや、慢性的な肩こりや腰痛といった常につきまとう痛み、また誤って何かに手をはさんでしまうことや、それら複数の事態が重なりあうことすら稀ではありません。このように身近な「痛いと感じる」ことは、実のところ簡単に定量化できる感覚ではないことを歌先生は強調します。「手を強く打撲したとしても、その瞬間に何かに極度に集中していて打撲したことに気づかない、という経験がある人も多いはずです。つまり、一見すると感覚にしか関わらない問題であるかのような『痛いと感じる』ことは、その人の感情やさまざまな状況と組み合わされた現象なんです。」

 さらに、生体防御反応としての痛みに着目する場合、個体として生き残ることを目的とする感覚であることから、脊椎動物以前の進化レベルであるかなり古い時代に獲得されたものであることが推測され、私たちはいまだに、この太古の感覚を解き明かすことができていないそうです。

 このような「痛み」研究領域での課題としては、腹痛や頭痛あるいは肩こりといった現象が、個人の身体の中で完結する自発的な痛みである一方で、基礎研究における実験では動物を対象とすることから誘発的な痛み、すなわち実験者が動物になんらかの刺激を与えて生じる反応を対象としているところに、臨床と基礎研究との間の距離を感じている、とのことでした。だからこそ歌先生には、自発的な痛みを研究において測定する術を見つけ、臨床レベルに近づけたい、という目標があるそうです。

 

痛み抑制のメカニズムを科学的に証明する

 

 痛み止めの薬剤を私たちは日常的に服用するけれども、それらの効果が明確に学問的に証明されていないものも多いとのこと。その一つの例としてアセトアミノフェンが挙げられるそうです。この成分は広く鎮痛剤として普及しているにも関わらず、その効果について実は科学的に実証されていなかったところ、2017年に歌先生らの研究グループは、アセトアミノフェンまたはN-アシルフェノラミンが、脊髄後角を介して鎮痛効果を誘導することを証明しました。

 

 

 

 

 

 

 

https://doi.org/10.1097/aln.0000000000001700

 

 また、痛みの治療としては低出力レーザーを用いることも私たちにはお馴染みですが、そのレーザー治療法が痛みを緩和するメカニズムについては不明な点が多かったところを、歌先生の研究グループは、レーザー照射が痛みを伝える神経活動を抑制することを報告してきました。2023年4月にはさらに、そのレーザー治療が痛み以外の機能を抑制することなく痛みだけにフォーカスして治療することができる、まさに理想的な治療法であることを科学的に根拠づけたのです。

 

 

 

 

 

 

 

https://www.u-toyama.ac.jp/wp/wp-content/uploads/20240418.pdf

 

 

このように歌先生の研究は、「痛み」領域の多岐に渡り、かつそれぞれが常に高い注目を集めているのです。

 

今後の研究の方向性について

 

  癌や糖尿病が、たとえ困難な目標であっても完治を未来の目標に据えることができる病態である一方で、痛みは異常を知らせる感覚として生来的に備わったものであり、私たちはこの不快な感覚と分かちがたく結びついてしまっています。このように痛みが生体防御反応であるからこそ、全ての痛みを単純におさえればよい、という論理では短絡的にすぎるのです。「過剰な痛みのみを抑える、これこそが肝要ですし、また、患者の痛みを取る手法について、きちんと科学的な根拠をもって説明したい、説明できることを増やしていきたいのです」と歌先生は熱っぽく語り続けていました。

 

(富山大学杉谷キャンパスにて 撮影:筆者)

歌先生の研究シーズについては以下をご参照ください。

https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/seeds_search/pdfviewold/index/34

(文責:学術研究・産学連携本部 URA加藤由美子)

 

【関連リンク】

応用薬理学研究室 http://www.pha.u-toyama.ac.jp/phapha2/index.html

研究者プロファイル https://u-toyama.elsevierpure.com/ja/persons/daisuke-uta

富山大学薬学部研究室一覧 http://www.pha.u-toyama.ac.jp/research/laboratory/

MDPI https://blog.mdpi.jp.wordpress.sciforum.net/2023/08/08/a-researchers-journey-dr-daisuke-uta/