インタビュー(森脇 真希助教)

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――まずは、先生の専門と研究内容を教えてください。

 

森脇氏:基本的には微生物を扱っていて、微生物が生産する有用物質をどのように作るか、どういう機能で作るか、その物質が何に効くのかについて研究をしています。

 

研究内容は、主に2つに分かれています。一つは、これを作りたいという明確な目的物質に対して、候補微生物を選択してどのようなプロセスにすると多く生産させられるかを研究する。

 

もう一つは、例えば人間に対して、良い効果のある成分が欲しいという目的で、微生物の培養液や微生物自体の抽出液などを、動物細胞に与えます。そして、何か有用な反応が現れたら、どういう機構で働いているか、最終的にはそれがどのような物質であるか決定するという研究です。ここでは、その物質が何か分かっている場合と、分かってない場合があります。

 

根本は、「微生物を利用して何か有用物質を作る」というところを専門にしています。

 

――研究の特徴について教えてください。何が売りかについても教えてください。

 

森脇氏:創薬研究では分子シミュレーションをコンピュータで計算することにより、こういう化合物を作ると良いかもしれないということを先に予測します。この場合は単純な構造または既知の構造から進めていくことになります。

 

一方で私共の研究では、微生物の生成するあらゆる物質が対象なので、予期せぬ形ですごく良いものが見つかったりしますし、その構造は非常に複雑な場合があります。イベルメクチンなどもそうで、これは放線菌の培養から得られたものです。微生物は、地球上で存在が証明されているのが1割に満たないくらいなので、残りの微生物の中にすごく有用な成分を生成するものがいるかもしれず、可能性が大きいというところが特徴かと思っています。今まで知らなかったものが見つかる可能性が無限大にあります。

 

――少し話は変わりますが、ご自分で微生物を探されているのですか?それとも遺伝子操作で作られているのですか?

 

森脇氏:遺伝子操作をしないのが「売り」で、特徴にもなります。遺伝子組み換え体を扱うには厳しい法律の順守が必要であり、多くの制限がかかります。遺伝子組み換えをしないで高機能な微生物が存在するなら、極力しないで進めたいと思っています。

 

――そうすると、探すのは大変ですね。

 

森脇氏:そうですね。でも、過去の研究を参考にどの種類に可能性があるかの方向性はあたりをつける事ができます。

 

――この研究は、いつ頃からやっていらっしゃいますか?学生の頃からですか?

 

森脇氏:学生の時は違う教授の下におりました。教授が退官されて、准教授についてからなので、2007年頃からですね。技術職員として就職してすぐくらいからです。

 

――今のご研究は、先生お一人でされているのですか?それとも何人かで共同研究のスタイルでやられているのですか?

 

森脇氏:今のところ、一人です。先ほどの准教授と一緒にやっていた内容を引き継いで研究活動を進めています。

 

――過去には、チームでやられていたことはありますか?

 

森脇氏:2007年から、故星野一宏教授とともに研究活動をしていました。2020年にお亡くなりになられたので、13年間は2人チームでした。

 

――比較的長い間、一人でやってらっしゃいますが、学外の方と共同で研究されることはなかったという感じでしょうか?

 

森脇氏:他大学の先生や企業の方と共同研究をしていた実績があります。企業の方が論文や特許から当研究室に興味を持っていただいて、連絡が来ることが多いです。

 

――他の先生にお聞きしましたら、「知り合うのは学会ですね」というお話でした。大学の中では、知り合うチャンスがあまりないような事も話していましたがいかがですか?

 

森脇氏:学内は、本当に無いですね。同じ学科内では、卒業研究発表会などでだいたい内容を把握しているので、その中で共通すれば交流することはありますが、同じ工学部内でも研究内容が共通しない他のコースとは今のところないです。研究内容が似ている理学部の先生はお話しさせていただくことはありました。

 

 

――メーカーさんと共同研究はされていますか?今扱われているもので、共同研究がありましたら教えてください。

 

森脇氏:メーカーではありませんが、微生物による有用物質変換に関する研究で企業との共同研究はあります。微生物による物質生産プロセス構築に対して研究を支援する形で共同研究を行っています。

 

――それはどのようなきっかけで共同研究に?

 

森脇氏:産学連携の先生から企業様へ働きかけていただいて、研究内容を有効活用したいという話がありました。

 

――企業側はどうやって知ることができたのか、ご存じですか?

 

森脇氏:ホームページや、研究内容を紹介しているページを見て、あとは学会発表や論文から興味を持っていただいたと思います。

 

――商用化にあたって、ビジネスプランは、どう考えていらっしゃいますか?創薬メーカーに何を売ることを考えていらっしゃいますか?特許、実用新案でしょうか?それとも知財権を売るとか?また、ロイヤリティは考えてらっしゃいますか?

 

森脇氏:独自の開発というイメージはあまりないですが、例えば、有用物質を作る菌に特許をかけるなどはやっています。

 

――菌そのものに特許がかけられるのですか?

 

森脇氏:かけられます。特定の菌を使って、「こういう物質を作る」ということに特許がかけられます。その菌を使用する権利を薬品メーカーさんにライセンスしたり、製造方法を特許にしたりするなどです。また、どういう条件で多く作れるかというのが分かればそういうプロセスを特許にすることもあります。

 

――実際に、メーカーさんにライセンスしたことはありますか?

 

森脇氏:大学として、菌にいくつか特許をかけていた時もありました。しかしそれを外部の方が利用した例はありません。

 

――実際に儲かっていますか?

 

森脇氏:いえ、儲けではなく、特許は保険です。他の方が同じ菌で同じ物質生産を行うことで利益を得ないようにするためです。例えば、その特許を見て、一緒に研究を進めたいという人がいたら一緒に行いましょうという、情報発信みたいな感じです。

 

――ところで、今やられている研究で、何かご苦労がありましたら教えてください。

 

森脇氏:一番大変なのは、まったく同じ条件でやっているのに、まったく同じ結果が出ないときがあることです。どうしても、毎回同じにならなくて、前回は出来たのに、その半分くらいしか出来なかったとか、たまたま非常に良くなって喜んでいたら、結局それは1回だけでその後再現できないということが結構あります。生物を扱うと、再現性というところが確保できるまで、試行錯誤するのが大変ですね。

 

――再現性が低いと、企業側に持っていくのも厳しいですよね…。

 

森脇氏:例えば1あるものを10に出来るかというと、そこが一番難しいです。それを2とか3だったら再現できますが、いつでも再現出来るという状態、10まで持っていくのが難しいです。しかし毎回10にできるように試行錯誤した上で企業へ提供できるよう努めています。

 

――先生の研究分野に「バイオ生産プロセス」がありますが、今の話は、例えば1を10に出来ますというように、確実にやるというのが、これに相当するのですか?

 

森脇氏:そうです。0から1へ、つまり目的物質を生産できる菌種を発見するところも1つですけど、発見した後で1を10にするというのがもっと難しいです。プロセスを構築するというのは、ベースの生産量を10倍か20倍にするというところです。効率が50%しかなかったものを100%にするにはどうしたらよいかを研究します。

 

――再現性や効率を上げるのは、難易度が高いというわけですね。

 

森脇氏:そうですね。

 

――研究テーマでご苦労があるんですね。学生を含めたチームビルドをお考えになったことはありますか?

 

森脇氏:正直なところ、学生に独自に方向性を考えてやってもらうのは、難しいと思っています。基本的な方針を学生に伝えて、学生が実験を行い、結果をもとにディスカッションしながら一緒に目標へ向けて進めていきます。

 

――学生さんに、色々仕事お願いしてやってもらうというのは、チームとして難しいということですね。

 

森脇氏:難しい面もありますが、一緒に考えていくことも教育と思っています。

 

――その都度、教えてやってもらうのが大変ということでしょうか?

 

森脇氏:そうですね。大学では学年が上がれば必ず卒業していくので、同じ研究でも年度が替わると次の人に引き継ぐ必要があります。人が替わると最初からまた教えないといけなかったり、人が変わることで微妙な変化があり、結果が出なくなったりすることもあるので、成果を維持することが大変です。

 

――コロナ禍の影響は、研究室にはありましたか?

 

森脇氏:今はもう無いですけど、コロナ禍が始まった頃は、影響がありました。研究室に来られないことで生物の培養が止まるため、必然的に研究も止まりました。幸い私共の研究室では、研究室内での感染はありませんでしたが、私自身がかかってしまうと、一斉にストップしてしまいますので不安でした。

 

――先生がかかってしまうと、大変ですね。研究室の他に、教育の現場もありますから。

 

森脇氏:大学という部分で、教育も、研究も、両方並列なので、そこが一番大変かもしれないですね。

 

――その他、ご苦労はありますか?

 

森脇氏:一番大変なのは資金調達ですね。今年度はありがたいことに共同研究費や助成金等を戴けているので研究を進められますが、もしそれがなかったら、全然立ち行かないですね。特に若手だと大きな資金がないので、研究が続けられずに辞めてしまう人も多いと聞いています。

 

――後に続く研究者へのアドバイスはありますか?

 

森脇氏:企業と共同研究をするにあたって、企業が求めているスピード感と大学の実際のスピード感が違うということを知っておいた方がいいです。大学だと数年かけてもいいと思っている部分がありますが、企業は、大抵まずは1年でというところがあります。そこにギャップがあります。うまく結果が出ない場合、大学研究室では、「次どうする?」と考えますが、企業さんは「出なければ止めます。」という感じになりますので、そこを認識しておくことが大事です。

 

 

――次期研究、今後の方向性、将来像をどのようにお考えですか?

 

森脇氏:「ひとつの形にする」ということです。今は「微生物がほんの少ししか生産できない物質を、多く生産するにはどうしたらよいか」という段階ですが、実際に商業ベースで使えるレベルで物質生産が出来るようになる条件を確立させることが一番の目標です。これだったら実用化レベルに乗せられるというところに持っていくのが目標です。

 

最終的に、それを本学だけではなく、それを扱ってくれる企業と一緒に、目に見える形の製品を作るというレベルになるのが将来像です。

 

――先生がやられている延長線上で、どういうものが世の中に出ていますか?

 

森脇氏:ポリ乳酸、乳酸で作るプラスチックがあります。今は、化学合成で作ったポリ乳酸は市場にありますが、発酵生産で得た乳酸からプラスチックまでできれば理想です。

 

――それは、何がすごいのですか?

 

森脇氏:生分解性プラスチックと言われているところが一番大きくて、プラスチックなのですけど、石油から製造したものではないため適切な処理をすれば自然に廃棄できるというところです。

 

――要するに自然に帰るということですか?

 

森脇氏:そうです。さらに、乳酸生産の際に菌の餌とするものを例えば廃棄物、自然界にある廃木材などを利用することで、廃棄物の有効利用にもつながります。自然界の原料を発酵して乳酸にし、さらにそれを重合、つなげていくとプラスチックの原料になります。

 

――海洋汚染が問題なっていますが、汚染の原因となるプラスチックではないということですね?

 

森脇氏:そうです。

 

――SDGsになるということですね。カーボンニュートラルの分野にも入りますか?

 

森脇氏:はい。乳酸以外にも、いろんな有機酸や物質があります。菌の生産する物質は、プラスチック以外にも、例えば食品や薬品など幅広い応用分野があります。自然界の中で炭素が循環する機構を、人に役立つ形で利用させてもらい、全体として豊かになるのが理想です。

 

――本日はお忙しい中、ありがとうございました。